2021年10月15日号
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artscapeレビュー

ソシエテ・イルフは前進する 福岡の前衛写真と絵画

2021年03月01日号

会期:2021/01/05~2021/03/21

福岡市美術館[福岡県]

ソシエテ・イルフは、高橋渡、久野久、許斐(このみ)儀一郎、田中善徳、吉崎一人、小池岩太郎、伊藤研之らによって、1930年代半ばすぎに福岡で結成され、戦時中まで活動したグループである。高橋、久野、許斐、田中、吉崎は写真愛好家だったが、小池は福岡県庁商工課に勤める工芸家で、伊藤は二科会に属する画家だった。彼らは、喫茶店や小池のアトリエなどを根城に議論を戦わせ、写真雑誌の『フォトタイムス』や『カメラアート』などに作品を発表したり、同人誌『irf 1』(1940)を刊行したりした。ちなみに「イルフ」というグループ名は「フルイ」を逆に読んだもので、そのネーミングには、シュルレアリスムやアブストラクトの理論を取り入れた、新たな写真表現=「前衛写真」に向かおうとしていた彼らの意気込みがよくあらわれている。

ソシエテ・イルフの活動を初めて本格的に紹介したのは、1987年に福岡市美術館で開催された「ソシエテ・イルフ 郷土の前衛写真家たち」だった。それから30年以上の時を経て、同じ美術館で本展が開催された。その後の研究の成果を踏まえて、ソシエテ・イルフの全貌をあらためて跡づけようとする展示は、よく編集された充実した内容のカタログ(編集・忠あゆみ、デザイン・尾中俊介)も含めてとても意義深いものとなった。何よりも見応えがあったのは、彼らが残したヴィンテージ・プリントの展示で、活動期間は短かったものの、ソシエテ・イルフが大阪、名古屋などの「前衛写真」に匹敵する、興味深い動きを展開していたことがよくわかった。中心メンバーの一人で、貝殻や薔薇の研究家でもあった久野久のクオリティの高い作品などは、それだけで一冊の写真集としてまとめることができるのではないだろうか。

ソシエテ・イルフに限らず、戦前の写真家たちの仕事には、まだその全体像が見えてこないものがたくさんある。それぞれの地域の美術館、博物館による、今後の調査・研究の成果を期待したいものだ。

2021/02/13(土)(飯沢耕太郎)

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