artscapeレビュー

写真家 ドアノー/音楽/パリ

2021年03月01日号

会期:2021/02/05~2021/03/31

Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]

ロベール・ドアノーは若い頃、自動車製造のルノー社に雇われていたこともあり、基本的には依頼された仕事をきちんとこなすプロフェッショナルな写真家だった。戦後も雑誌の写真の仕事をずっと続け、有名な《パリ市庁舎前のキス》も『ライフ』誌の注文で撮影した演出写真だった。にもかかわらず、彼の写真には常に自発的、能動的な撮ることの歓びが溢れているように見える。自分の好きな写真を好きなように撮るという、むしろアマチュア的な精神を保ち続けていたという点では、日本でいえば植田正治に近いといえそうだ。

今回の「写真家 ドアノー/音楽/パリ」展には、そんなドアノーの姿勢がよくあらわれた写真が並んでいた。2018年末〜19年にかけて、ドアノーの孫にあたるクレモンティーヌ・ドルディルの企画で、パリ19区のフィルハーモニー・ド・パリ付属の音楽博物館で開催された展覧会を元に、約200点の作品で構成された本展のテーマは、いうまでもなく「音楽」である。「街角」「歌手」「ビストロ、キャバレー」「ジャズとロマ音楽」「スタジオ」「ビュッフェ・クランポンのクラリネット工房」「オペラ」「モーリス・バケ」「1980年代-90年代」の9パートで構成された展示を見ると、ドアノーが「耳の人」でもあったことがよくわかる。写真家だから、当然視覚的な世界に鋭敏に反応するのは当然だが、聴覚も同時に働かせ、いわば全身の感覚を総動員してシャッターを切っていたのではないだろうか。見ることと聞くこととが見事に融合した写真の世界を堪能することができた。

なお小学館から、小ぶりだが目に馴染む、B6変型のカタログ(デザイン・おおうちおさむ/有村菜月)が刊行されている。

2021/02/04(木)(飯沢耕太郎)

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