artscapeレビュー
竜とそばかすの姫
2021年08月01日号
[東京都]
『時をかける少女』(2006)公開以降、正確に3年ごとに新作を発表する細田守の『竜とそばかすの姫』(2021)は、これまでの系譜を継いだものだった。今回の仮想世界「U」は、ドタバタ大家族SF『サマーウォーズ』(2009)の仮想空間「OZ」と比べると、身体的な特徴を反映させたアバターに進化している。また声がテーマになっていることから、今回のアズ(アバター)/オリジン(本人)は、アニメにおけるキャラ/声優の関係と重なり、メタ的な作品のようにも思える。もっとも、劇中のすずは母を失ったトラウマから歌えなくなり、「U」の世界でだけ「ベル」として華麗に歌えるという設定なのだが。ちなみに、『バケモノの子』(2015)も二重世界の物語だったが、空に浮かぶ巨大な白鯨は今回も登場した。
一方でリアルな世界としては、『サマーウォーズ』や『おおかみこどもの雨と雪』(2012)と同様、自然が豊かな地方が舞台である。実際、細田監督が美しいと聞いて、高知の二淀川周辺をロケハンし、それをもとにして、ネットの世界とは対照的な風景というべき、すずが暮らす家や周辺の環境が描かれた。
また『未来のミライ』(2018)に登場する建築家の自邸の設計には、谷尻誠を起用したが、今回もイギリスの建築家エリック・ウォンに仮想空間のデザインを依頼した。平日は設計の実務を行ない、週末に映画のための仮想空間を構想したという。「OZ」では回転する同心円状の空間が印象的だったのに対し、「U」の世界では、「U」の文字をモチーフとしつつ、楽器のハープがイメージされた。そして弦の垂直線が連続するかのように、ビルが林立する風景を導く。
さて、『竜とそばかすの姫』は、細田が好きなディズニー版のミュージカル・アニメ『美女と野獣』的なプロットを経て、むしろ現実の世界のほうを変え、抑圧された少年少女を解放していく。インターネットが社会に対してネガティブな影響力を強める現状において、その暗黒面をとらえながらも、最終的にボジティブなメッセージを発信している。またこれまでの細田作品と同様、登場人物の成長物語でもある。なお、音楽をテーマにする映画は、音楽そのものがどれくらい説得力をもつかも重要な鍵となるが、すず/ベル役を担当したミュージシャンの中村佳穂は見事に期待に応え、ときどき感じられる脚本の欠陥を忘れさせるほど、圧巻だった。
映画『竜とそばかすの姫』公式サイト: https://ryu-to-sobakasu-no-hime.jp/
2021/07/18(日)(五十嵐太郎)