artscapeレビュー

分身ロボットカフェ「DAWN ver.β」

2021年08月01日号

[東京都]

新日本橋駅の近くにある分身ロボットカフェの「DAWN ver.β」を訪れた。これは吉藤オリィが、重度障害のために外出困難な人でも、遠隔地から在宅で働けるロボットを開発し、実証実験を経て、6月に常設店がオープンしたものである。彼は自らも3年半の不登校を経験した後、早稲田大学在学中に独自で「オリィ研究室」を立ち上げているが、2013年にFacebookを通じて、交通事故で動けない番田雄太と出会ったことを契機に、「寝たきりであっても自分らしく働ける場所」の実現に取り組んだ。 現在、カフェでは3種類の分身ロボットが稼働している。まずiPadと連動する小型の遠隔操作ロボット「OriHime」は、卓上に置かれ、手や首を動かしながら、音声でのコミュニケーションをとって、食事の注文や会話を行なう。


iPadと連動する小型の遠隔操作ロボット「OriHime」


次に遠隔での肉体労働を可能にする自走型分身ロボット「OriHime-D」は、身長が約120cmであり、店内をガイドラインに沿って移動することによって、ドリンクを運ぶ。基本的に客席では、この2種類が対応するが、奥のカウンターでは、元バリスタとの意見交換を受けて開発され、遠隔操作によってコーヒーを淹れることが可能な「Tele-Barista OriHime×NEXTAGE」が立つ。バリスタのロボットが動く状況には立ち会えなかったが、両腕によって、もっとも複雑に動くと思われる。


遠隔での肉体労働を可能にする自走型分身ロボット「OriHime-D」



「Tele-Barista OriHime×NEXTAGE」


筆者は、実際にランチを注文し、青森県や山形県にいるパイロット(遠隔地から働くメンバーをこう呼ぶ)との会話を体験した。ただ音声をやりとりするのではなく、言葉に反応して動く「OriHime」のおかげで、本当にパイロットの存在を感じることができる。ロボットは、いわゆるかわいいデザインだが、別の客席にいた幼児は怖がって泣いていたから、かわいいという感覚も後天的に獲得されるものなのだろう。ともあれ、こうしたコミュニケーションは、メディアアートなどでも試みられていたが、分身ロボットカフェがインパクトをもつのは、実際に社会に役立つデザインになっていることだ。これぞ、新しいデザインと工学の融合を社会実装させ、未来を感じさせるプロジェクトである。今後は教育の分野でも、活用が期待できるだろう。


パイロットとのガイダンスの様子



「OriHime-D」と「OriHime」


じつはカフェを訪れたのは、ちょうど崇高な理念をうたうはずのオリンピックの開会式への、障害者に暴行を働いた過去をもつミュージシャンの参加が問題になったタイミングであった。それだけに「孤独の解消」を掲げる、こうした民間の挑戦は、頼もしく思えた。

公式サイト:https://dawn2021.orylab.com/

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