2021年09月15日号
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artscapeレビュー

オリンピック・ランゲージ:デザインでみるオリンピック

2021年08月01日号

会期:2021/07/20~2021/08/28

ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]

2020年東京オリンピック競技大会が開幕した。1年の延期を経て、コロナ禍のなか開かれた今大会は言うまでもなく苦難の道のりだったが、クリエーションにおいても、正直、お粗末な結果だったと言わざるを得ない。振り返れば6年前、ザハ・ハディドによる国立競技場の設計案が白紙撤回され、佐野研二郎がデザインしたエンブレムが盗用疑惑をかけられ使用中止になった。あのときからつまずきが始まったように思うのだが、本展を観て、その思いは確たるものへと変わった。今大会のクリエーションに圧倒的に足りなかったもの、それはアートディレクションである。

本展では夏冬を合わせた過去の大会を総ざらいし、特にデザイン面で画期的だった五つの大会に焦点を絞り、そのクリエーションを紹介している。具体的にはエンブレムやポスター、ピクトグラム、聖火トーチ、メダルなどで、通常、それらはひとつのVI(ビジュアルアイデンティティー)にまとめ上げなければならない。しかも開催都市や国の文化、精神、歴史に根ざした「大会ルック(大会の個性を表現・演出する特徴的なデザイン装飾)」であるべきなのだ。この五つの大会のなかに1964年東京大会が加わっていたことは誇るべきことだが、なおさら1964年に優れたクリエーションができて、2020年になぜできなかったのかという思いに駆られる。本来なら佐野研二郎は、1964年東京大会で力強いエンブレムとポスターをデザインした亀倉雄策になるべき人物だったのに、そうはならなかった。また同大会でデザイン専門委員会委員長を務めた勝見勝のような人物も、今大会にはいなかった。それゆえひとつのVIにまとまらず、「大会ルック」がまったく見えない大会となってしまったのだ。

さて、五つの大会のなかで、私が特に注目したのは1968年メキシコシティ大会である。組織委員会委員長の功績により、メキシコの先住民ウイチョル族がつくるカラフルな毛糸の民芸品に着想を得て、同心円状の波紋を採用したオプ・アートのようなエンブレムを完成させた。そのビジュアルがポスターにも、聖火トーチにも反映されていた。この国の文化、精神、歴史に根ざしながら、モダンデザインへと見事に洗練させた点が評価に値する。今後もわが国では2025年日本国際博覧会など大きな国際イベントが待ち受ける。どうかクリエーションの失敗を繰り返さないでほしいと願うばかりだ。


1968年メキシコシティ大会、公式ポスター © International Olympic Committee – All rights reserved


1964年東京大会、公式ポスター © International Olympic Committee – All rights reserved



公式サイト:https://www.dnpfcp.jp/CGI/gallery/schedule/detail.cgi?l=1&t=1&seq=00000778

2021/07/21(水)(杉江あこ)

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