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《秋田市文化創造館》、200年をたがやす、《秋田市立中央図書館明徳館》、ルーヴル美術館の銅版画展

2021年10月15日号

会期:2021/07/01~2021/09/26

秋田市文化創造館[秋田県]

秋田県立美術館が2013年に移転新築し、解体が予定されていた旧県立美術館は、保存を望む市民の声によって、県から市に無償譲渡され、今年、秋田市文化創造館として再生した。2021年に開館した長野県立美術館の旧館は、同じ場所での建て替えなので、消えてしまったが、秋田市の旧館は新しい道を歩みはじめたのである。なお、秋田市と長野市の旧館は、いずれも日建設計が手がけ、1966年に竣工した建築であり、特徴的な屋根をもつ。



《秋田市文化創造館》



《秋田市文化創造館》


そのオープニングとして開催された服部浩之監修「200年をたがやす」の展示期間「みせる」では、生活、食、工芸など、秋田のさまざまな文化資産を掘り起こしつつ、空間設計に建築家の海法圭が入り、空間を自由に使う可能性を提示していた。かつて藤田嗣治の巨大な絵画「秋田の行事」が展示されていた壁には、同じサイズの鏡面を設置し、過去を想起させながらも現在の姿を写しだす。美術の分野で特に印象的だったのは、「農民彫刻家」として活動した皆川嘉左ヱ門である。大きく力強い木彫の作品は、吹き抜けの大空間においても圧倒的な存在感を維持していた。



皆川嘉左ヱ門の作品展示風景



1階のリサーチセンター



工芸の展示


秋田市文化創造館の横は、谷口吉生による美しい階段をもつ《秋田市立中央図書館明徳館》(1983)が建ち、また向かいでは、佐藤総合計画の設計による《あきた芸術劇場ミルハス》が建設中であり、この一帯が文化のエリアとして再編されている。


《秋田市立中央図書館明徳館》



《秋田市立中央図書館明徳館》


道路を挟んだ秋田県立美術館では、「ルーヴル美術館の銅版画展」を開催していた。あまり知られていないグラフィック・アート部門の銅版画のコレクションだが、ルイ14世の時代に始まり、現代作家のものも収集されているという。

ここでは藤田の「秋田の行事」のための展示空間が設けられているが、創造館における不在を示す鏡面を見てからはしごすると興味深い。なお、彼がこの絵を制作した当時の空間の模型に加え、常設展示するための美術館の図面が発見されたことにより、その建築模型も置かれていた。秋田県立大の研究室が制作したものだが、1938年に着工されたものの、戦争で中止になったという。驚かされたのは、そのデザインである、ガラス張りの鉄骨の屋根の展示空間だから、もし実現していれば、当時の日本としては画期的な美術館になったはずだ。

200年をたがやす / CULTIVATING SUCCESSIVE WISDOMS

会期:2021年7月1日(木)~9月26日(日)
会場:秋田市文化創造館
(秋田県秋田市千秋明徳町3-16)ほか

秋田県誕生150年記念 ルーヴル美術館の銅版画展

会期:2021年9月11日(土)~11月7日(日)
会場:秋田県立美術館
(秋田県秋田市中通1-4-2)

2021/09/22(水)(五十嵐太郎)

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