2022年12月01日号
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artscapeレビュー

リニューアル記念コレクション展 ボイスオーバー 回って遊ぶ声

2021年10月15日号

会期:2021/09/18~2021/11/14

滋賀県立美術館[滋賀県]

今年6月にリニューアルオープンした滋賀県立美術館。リニューアル記念展「Soft Territory かかわりのあわい」では滋賀にゆかりのある若手作家12名がすべて新作で参加し、「同時代の創造の場所としての美術館」像を提示した。同時開催されたコレクション展に続き、リニューアル記念展の第3弾となる本展では、日本画、郷土美術、現代美術、アール・ブリュットの4分野からなるコレクションの名品100点以上を、ジャンルや年代の慣習的な壁を取り払って展示。思いがけない邂逅が展示室に出現する。例えば、「日々つくる」のテーマの下で、河原温の「デイト・ペインティング」と、アール・ブリュットの作家の澤田真一による、全身にトゲを生やしたトーテムポールのような陶作品が併置される。祈りや崇高さの形象をテーマにした一室では、禁欲的な色彩構成で宗教的な境地を感じさせるアド・ラインハートとマーク・ロスコの抽象絵画を経由して、鎌倉時代の不動明王像を白髪一雄の燃え盛る炎や火球の炸裂のような絵画が取り囲む。


会場風景[撮影:来田猛]


さらに本展では、田村友一郎、中尾美園、建築家ユニットのドットアーキテクツという3組のゲストアーティストが参加し、それぞれの視点からコレクションに新たな光を当てた。田村は、アンディ・ウォーホルのシルクスクリーンの連作《マリリン》と《電気椅子》をつなぐ相関関係を読み込み、拡張的に連想の輪を広げていく映像インスタレーションを構成。《マリリン》の引用画像が、サスペンス映画『ナイアガラ』のスチル写真だとされることを起点に、ナイアガラの滝を利用した水力発電による電気が、ウォーホルの《電気椅子》にも送電されていた可能性へとつなげていく。「CG合成」によるナイアガラの滝を背景に、2人の人物の会話体をとるこの映像では、「サスペンス」「ナイアガラの滝」「水力発電」「滝がもたらす死(電気椅子、サスペンスの山場)」「消失」「視線と主体」といったキーワードをめぐる会話が繰り広げられ、鏡合わせのように互いの「本名」と「芸名」が反転する2人の話者の自/他の境界も曖昧に消失していく。サスペンスの仕業である「消失」は《電気椅子》と《マリリン》にも起こっており、初期の《電気椅子》ではドアの上にあった「SILENCE」というサインが後の作品では消え失せ、同じく初期の《マリリン》の金色の背景も後に姿を消したという。そして会話体の字幕が流れる映像では、「語りの声」も滝の音などの「BGM」もすべて「消失」し、沈黙が支配する。



会場風景[撮影:田村友一郎]


一方、中尾美園は、「消失した作品」の再現模写というかたちでコレクションに向き合う。中尾は保存修復の仕事に携わりつつ、日本画材を用いた精緻な「写し」によって、高齢の女性たちの遺品や生活のなかの慣習など「失われゆくもの」を記録し、紙の上に物質的強度として留める作品を制作してきた。本展では、美術館設立に関わりのある日本画家、小倉遊亀のリサーチを進めるなかで、1969年にホテル火災により焼失した《裸婦》(1954)という作品に着目した。日記体による小倉の著書に倣い、絵巻仕立ての「再現日記」では、生前のままに残された小倉の画室を訪問調査し、《裸婦》の下絵の発見、残された画材や画筆の観察などが詳細に記録される。また、美術館所蔵の同時期の小倉作品数点を実見し、金属箔の上に顔料を塗り重ねる背景処理、顔料比の推察、顔と胴体の肌色の濃度の比較、輪郭線からはみ出す肌色のおおらかな印象、たらし込みや胡粉の盛り上げなど、技法やディテールの詳細な観察メモも記される。「小倉がどう描いたか」の分析と追体験のなかに、描くことの喜びの共有が伝わってくる。また、中尾が「絵描き」ならではの視点で観察した小倉作品は、本展の前半でも展示されており、もう一度展示室に戻ってディテールをじっくり再確認したくなる。展示室内部でまさに「回遊」が発生するのだ。



会場風景[撮影:来田猛]



会場風景[撮影:来田猛]


また、完成した《裸婦》の再現模写の裏側には、小倉自身の言葉や《裸婦》の発表歴などの資料とともに、「火災を報じる新聞記事」の「模写」(!)が貼られている。作品の焼失をのちに知ったショックと、コレクターの無断の転売を非難する小倉の言葉からは、「保存し後世に残す」美術館の役割が改めて浮上する。

そして、「美術館の活動や機能」に光を当てるのが、ドットアーキテクツ。リニューアル前の4年間の休館中のアウトリーチ的活動を、地下に菌糸を伸ばす「キノコ」の生態になぞらえた資料展示を行なった。県内各所で若手作家を紹介し、リニューアル展の前哨戦となった「アートスポットプロジェクト」、子どもたちへの教育普及活動、他館への作品貸出といったさまざまな活動は、地下に張り巡らされた菌糸が地上に姿を現わした「キノコ」なのだ。

作品どうしの見えない相関関係を「消失と沈黙」によって逆説的に浮かび上がらせる田村、作品自体の「消失」を「記憶の継承や保存」へとつなげる中尾、美術館の機能を生き生きとした生態的ネットワークとして可視化するドットアーキテクツ。それぞれの視点がバトンを渡すようにつながり、コレクションとも呼応する充実した展示だった。



会場風景[撮影:来田猛]


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2021/09/26(日)(高嶋慈)

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