2022年12月01日号
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artscapeレビュー

葛西薫 NOSTALGIA

2021年10月15日号

会期:2021/09/08~2021/10/23

ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]

アートディレクター葛西薫の個展がギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中である。彼の仕事のなかで社会に与えた影響がもっとも大きいと思うのは、サントリーウーロン茶の広告制作だ。特に1990〜2000年代にかけて、徹底して中国を舞台に中国人キャストで広告がつくり上げられてきたからである。まだ当時、発展途上にあった中国は世界のなかでもGDPが低く、米国をはじめ他国への脅威もあまり感じさせない国だった。そんな時代において牧歌的でのどかな農村や民家を背景に、人民服のような質素な服を着た若い中国人たちが日本の歌謡曲を中国語で静かに歌うといった演出は、まるで中国が秘境であるようなイメージを抱かせた。日本の市場でまだ知られていなかったウーロン茶を売り出すのにあたり、そうした中国の美しく無垢なイメージを伝えたサントリーの戦略は見事であったと同時に、それを担った葛西薫の手腕には感服せずにはいられない。同ギャラリー2階ライブラリでの連携展示で、彼がこれまで手がけてきたほかの広告作品を見て改めて感じたのだが、彼のアートディレクションには一貫して上質な空気感を生み出す力がある。それゆえ見る者に潤いや豊かさを与え、憧憬の世界へと誘うのだ。


展示風景[撮影:藤塚光政/提供:ギンザ・グラフィック・ギャラリー]


さて、本展のテーマは「NOSTALGIA(ノスタルジア)」である。葛西薫はこの言葉を「意味のないもの、分からないものへの興味。その深層にあるもの」と解釈する。さらに「自分の手(宇宙)を通して湧き出てくる、創作の断片を編集する喜び」と言う。確かに同ギャラリー1階に展示された作品は、中国のやはり秘境のような風景を切り取ったモノクロ写真や、一見、無意味にも思えるドローイングなどである。齢70歳を超え、円熟の境地に差し掛かった葛西薫はいっさいのしがらみから解き放たれ、自由を新たに手にしたように見える。自由奔放に、手の赴くままつくり上げた作品には、独特のノイズや手触り、匂い、温かさなどが潜んでいるように思えた。そうした類の感覚を大事にしながら、上手に洗練させ、彼はこれまでアートディレクションに挑んできたのだろう。長年にわたり、広告などで人々の心を動かしてきた源泉に触れるような展覧会である。


展示風景[撮影:藤塚光政/提供:ギンザ・グラフィック・ギャラリー]



公式サイト:https://www.dnpfcp.jp/gallery/ggg/jp/00000779

2021/10/06(水)(杉江あこ)

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