artscapeレビュー
村越としや「息を止めると言葉はとけるように消えていく」
2021年12月15日号
会期:2021/11/20~2021/12/18
amana TIGP[東京都]
会場に入ると7点の作品が展示されていた。イメージサイズは60×190cm。マットの余白とフレームがあるのでさらに大きく感じる。写っているのは横長の海の景色で、水平線がちょうど画面の中央に来ている。2012年から21年にかけて、福島第一原子力発電所近くの、ほぼ同一の場所から、6×17cmサイズのパノラマカメラで撮影されたものだ。雨、あるいは霧がかかっているのだろう、湿り気を帯びたグレートーンが、画面全体を覆いつくしているものが多い。
この「息を止めると言葉はとけるように消えていく」と題されたシリーズを見て、杉本博司の作品を連想する人は多いだろう。むろん、発想もプロセスもかなり違っているのだが、見かけ上は杉本の「Seascapes」と同工異曲に思える。人によっては、村越がずっと撮り続けてきた、実感のこもった福島の風景とは違った方向に進みつつあるのではないかと感じるかもしれない。彼もそのことを充分に承知の上で、あえてこの隙のない画面構成と、モノクローム・プリントの極致というべき表現スタイルを選択しているのではないかと思う。個人的には、その方向転換をポジティブに捉えたい。村越のなかにもともと強くあったミニマルな美学的アプローチを、むしろ徹底して打ち出そうとしているように思えるからだ。不完全燃焼に終わるよりは、より先に進んだ方がいいのではないだろうか。DMの小さな画像ではよくわからなかった、彼の全身感覚的な被写体の受け止め方が、大判プリントの前に立つことでしっかりと伝わってきた。
関連レビュー
村越としや「沈黙の中身はすべて言葉だった」|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2016年03月15日号)
2021/11/30(火)(飯沢耕太郎)