artscapeレビュー

柚木沙弥郎 life・LIFE

2021年12月15日号

会期:2021/11/20~2022/01/30

PLAY! MUSEUM[東京都]

若い頃に民藝運動に出合い、芹沢銈介に師事して染色家の道に進んだ柚木沙弥郎。当時の民藝を知る99歳の作家がいまだ現役で活躍していることにまず驚く。2013年に101歳で逝去したプロダクトデザイナーの渡辺力も最期まで現役を貫いた人物だったが、彼らに共通して言えるのは、優しい笑顔を絶やさなかったことではないか。本展で展示された柚木の素顔を見ていると、そう思えてきた。つまりつねに大らかな気持ちで物事に接することが、長寿かつ生涯現役の秘訣なのではないかと想像する。

柚木の作品の魅力は、型染の味わいに尽きる。それは筆での彩色にはない線や輪郭の武骨さや、ムラや滲みのある色の載り方、重ね刷りのような表情だろうか。彼はこうした味わいを強みに、民藝を出発点としながらもさらに一歩抜け出し、現代的な作風を次々と生み出してきた。本展ではそんな染色作品が「布の森」と称した展示空間でたっぷりと味わえる。


《まゆ⽟のうた》(2013)岩⼿県⽴美術館蔵[撮影:⽊寺紀雄]


もうひとつの見どころは絵本の原画だ。正直、柚木がこれほど絵本を手がけていたとは知らなかった。宮沢賢治の絵本シリーズ『雨ニモマケズ』の絵については以前に別の展覧会で観たことがあったが、ほかにジャズピアニストの山下洋輔や詩人のまど・みちお、谷川俊太郎ら大物クリエイターとのコラボレーション作品が並び、さすがと思う。いずれの絵本も登場人物のほとんどが動物たちで、彼ら(?)がとても豊かな表情をしていることに惹きつけられた。おどけた表情や驚いた表情、生き生きとした表情……。絵本の世界なのでもちろん擬人化された動物たちなのだが、彼らを見ていると、現実の世界の煩わしいことなどはどうでもよく思えてくる。ここに柚木の大らかさが溢れているように感じた。驚いたのは、絵本の原画でも型染の技法を用いていたことだ。その絵本で使用された型紙が展示されていて興奮する。型紙が、もはや彼の絵筆代わりなのだろう。辛い戦争時代も経ながら長く生きてきた彼にとって、いまの世界的なパンデミックは何てことのない出来事なのかもしれない。彼の作品から温かな気持ちをお裾分けしてもらったような気持ちになった。


『ぎったんこ ばったんこ』原画(2000)⽊城えほんの郷蔵


『つきよのおんがくかい』原画(1999)⽊城えほんの郷蔵



公式サイト:https://play2020.jp/article/yunokisamiro/
※アイキャッチ画像:「柚⽊沙弥郎 life・LIFE」展覧会ビジュアル

2021/12/02(木)(杉江あこ)

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