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artscapeレビュー

お布団 CCS/SC 1st Expansion『夜を治める者《ナイトドミナント》』ワーク・イン・プログレス

2021年12月15日号

会期:2021/11/12~2021/11/14

アトリエ春風舎[東京都]

お布団の長期制作プロジェクト「CCS/SC」が、2022年2月に予定している本公演に先がけて1st expansion『夜を治める者《ナイトドミナント》』ワーク・イン・プログレスを上演した。

Crowds continuum shift / Suicidal characterのイニシャルをとった「CCS/SC」は「『病:制御不可能な/望まない/望まれない性質』というテーマについて考え、創作」するためのプロジェクト。お布団のメンバー(作・演出の得地弘基、俳優の緒沢麻友、音響の櫻内憧海)に加え、プロジェクトに賛同して集まった劇作家、演出家、俳優、制作、美術家など総勢38名もの「研究員」が参加している。2019年12月に研究員の募集が行なわれ、当初は2020年4月からの2年間をかけて「複数人で考えて、複数の作品を作っていく」ことを掲げてスタートしたが、コロナ禍の影響もあってか今回のワーク・イン・プログレスが初めて公開での活動となった。

お布団の作品はこれまでそのほぼすべてが古典作品の翻案であり、本作では『ハムレット』が物語のベースとなっている。そこにさらに「《吸血鬼》、《人狼》、《幽霊》、《人造人間》、そして《人間》」という「五つの病を寓意化した種族」を設定として導入。さまざまな噂や疑惑が渦巻く世界で王子/ハムレット(宇都有里紗)が周囲の人間の「正体」を暴こうとする筋立ては、例えば人狼ゲームのような犯人当てゲームを思わせる。


[撮影:三浦雨林]


登場人物にはそれぞれ院長/クローディアス(永瀬安美)、医師/ホレイショー(谷川清夏)、娘/オフィーリア(大関愛)、兄/レアティーズ(黒木龍世)、幽霊/ガートルード(大関、谷川)と『ハムレット』に由来する名前が割り当てられているのだが、幽霊の名が先王ではなくハムレットの母であるガートルードになっていることからもわかるように、いくつかの設定は原作からずらされている。その最たるものがオフィーリアだろう。原作では狂気に陥った末に水死してしまうオフィーリアだが、本作ではほとんど唯一、一貫して「正気」の側にいる人間として描かれているのだ。


[撮影:三浦雨林]


本作のキャッチコピーに「治ると治す、病と健康の境界を巡る『現代』への箱庭治療」とあることからもわかるように、ここでは「狂気」=病と「正気」=健康、そしてその境界の問い直しが目指されている(本作にはもうひとつ大きな反転も用意されているのだが、本公演も控えているのでここではそれについては触れない)。また、モチーフである「病を寓意化した種族」が五つあり、しかもそこに《人間》までもが含まれているのは、病と健康という二項対立を脱臼し、複数の視点からそれらを捉え直そうという意図によるものだろう。「病」を名指すことそれ自体もまた、治癒を目的にそれが「病」であることを確定するという点において両義的な行為だ。

だが、今回のワーク・イン・プログレスでは、この「五つの種族」という設定については設定のままに終わってしまっているような印象を受けた。それぞれの種族についての設定は単に個人の性質として回収されてしまい、それらを並べることによって新たな視点が立ち上がるということもなかったように思う。あるいはもちろん、そのように物語や作品、ひいては社会に「望まれない性質」だからこそ病と呼ばれるのだということかもしれないが……。


[撮影:三浦雨林]


[撮影:三浦雨林]

また、今回はワーク・イン・プログレスということもあってかプロジェクトからの参加メンバーが少数に限定されており、これまでのお布団の作品との差異がさほど感じられなかったのも少々残念だった。永瀬以外の俳優陣については得地の作・演出作品への出演は初めてであり、これまでのお布団作品とは異なる演技体が持ち込まれているという新味はあった。しかし、出自も活動するフィールドもバラバラな俳優たちの演技はほかの俳優の演技とも得地の台本の言葉とも十全には噛み合っていないように感じられたのだった。

今回、俳優以外の「研究員」からは美術家の中谷優希が参加し美術を担当。ビジュアル面のクオリティの向上に一役買っていた一方、中谷は自身の作品でも「病」や「ケア」と関連するテーマを扱っており、その意味では本作にもより深くコミットする余地が残されているようにも思われた。せっかく多様な「研究員」を抱えるプロジェクトなのだから、そのようなかたちで互いの思考が影響を与え合う様子を見たい気もする。

「NOW LOADING.../PLAY START」とはじまり「SAVEを完了しました」と終わる本作は、ひとまずは紛れもないバッドエンドを迎えている。だが、初回のプレイは言わばチュートリアル、あるいはテストプレイの段階だろう。次のプレイ、つまりは2022年2月の本公演でベターエンドに到達するための「別ルート」をプロジェクトは見出せるだろうか。


[撮影:三浦雨林]



お布団 CCS/SC:https://offton.wixsite.com/ccssc
お布団:https://offton.wixsite.com/offton
お布団 CCS/SC 1st Expansion『夜を治める者《ナイトドミナント》』ワーク・イン・プログレス:http://www.komaba-agora.com/play/12846


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