artscapeレビュー
GINZA STREET LAB
2021年12月15日号
会期:2021/11/29~2021/12/17
資生堂銀座ビル[東京都]
SDGsが国連加盟国の間で掲げられてから早5年が過ぎた。企業や団体、自治体などはビジネスや活動をするにあたって、それがSDGsに即した内容でなければ、ユーザーに共感されない時代になってきている。そんな難しい課題を突きつけられるなかで、今年、資生堂がユニークな展示を行なった。創業地であり社屋を構える銀座の街にスポットを当て、「銀座の生態からサステナビリティを考える」プロジェクトを行なったのだ。それをウィンドウアート「銀座生態図」として昇華し、社屋の前の並木通りを行き交う人々の目を楽しませた。
具体的には資生堂に所属するアートディレクターの堀景祐が、銀座の生態を「人・自然・生活」の循環と捉え、さまざまな視点から観察するフィールドワークを行なったのだ。「前期:植物・生き物編」「中期:大地編」「後期:人の営み編」という三つのフェーズに分け、さまざまなものを採集し、クラフトワークをし、銀座の地理を模した什器にコラージュした。銀座は日本最大級の商業エリアである。高級ブランド店や宝飾店、ギャラリー、一流レストランなどが建ち並ぶイメージがなんとなくあるが、実は通りの路肩や足元に目を向ければ、さまざまな街路樹や海外からの訪問者によって運ばれた外来種の草花、緑化された屋上に飛び交う鳥や蝶など、ほかの街には見られない多種多様な生物が棲むことがわかったのだという。また歩道にはアスファルトだけでなく多様なタイルがあり、街路樹の下にはいろいろな色や形の土や石がある。調査そのものは地道で泥臭い作業であるが、採集した物を元に美しく印象的なウィンドウアートに仕立てたのはさすがとしか言いようがない。また採集した葉で草木染めした布や、採集した土でつくった陶器などのクラフトワークも興味深かった。
本展ではプロジェクトの集大成として三つのフェーズのウインドウアートがまとめて展示されたほか、資生堂と武蔵野美術大学との産学協同プロジェクト「Crafting New Beauty 2021─サステナブルな美の生活価値の共創」の学生作品も併せて展示された。こちらは学生たちが銀座で生きる人々との対話を経て、パフォーマンス手法を用いたリサーチを行ない、プロトタイプへと落とし込んだものだ。さらに「100年後まで遺したい銀座の美」をテーマに写真と言葉で創作した複数枚のカードも発表された。この「銀座生態図」はある意味、きらびやかな街を土着的に下支えする「人・自然・生活」の生態図だ。資生堂もその一部であることを自覚したうえでの試みなのだろう。サステナブルとは、結局、背伸びをしすぎないとか、欲張りすぎないということから始まるのではないか。身の丈に合った場所で、自らの周辺に気を配り、良好に保ちながら次代に引き継いでいく。多くの人々がそれを実行すれば、地球環境は少しだけ救われる気がする。
公式サイト:https://creative.shiseido.com/jp/news/90340/
2021/12/03(金)(杉江あこ)