artscapeレビュー
NUNO─Visionary Japanese Textiles 刊行記念展「nuno nuno」
2021年12月15日号
会期:2021/12/01~2021/12/12
AXISギャラリー[東京都]
近眼の人なら、この感覚をわかってもらえるだろうか。眼鏡やコンタクトレンズを外した裸眼で衣服などに顔をグッと近づけ、繊維の様子を間近で見たときの感覚を。普段、見慣れている布の表情とはまた違う世界がそこには広がっていて、新鮮な驚きを伴うものだ。そんな布のミクロの世界を本展では林雅之による高精度な写真で見せてくれた。モジャモジャしていたり、艶やかだったり、さまざまな起伏があったりと、ミクロ視した布はまるで何かの生き物のようだ。当然のことながら、布は糸を織ったり編んだり圧縮したりして生まれる。布を製作する際、その構造をまず設計することから始めなければならない。例えば織物の場合、経糸と緯糸が交差するマス目上で一目ごとに糸の種類を指示する。以前、ある織物工場を見学した際、デザイナーがパソコン上で設計図をつくっているのを見て、それがビットマップと酷似していることを感じ、織物とデジタルとは案外相性が良いものではないかと思ったことがある。まさにビットマップのように緻密な設計のもとで布は生まれるということを知らしめた写真であった。
本展はテキスタイルデザイナーの須藤玲子が主宰する、テキスタイルデザインスタジオNUNOの作品集刊行記念として開催されたインスタレーション展で、we+が展示デザインを手掛けた。もうひとつの見どころは、中央にいくつも浮遊した作品「NUNO Cubic」である。写真のミクロなアプローチとは対照的に、大きな立方体の6面それぞれに本物の布が張られている。雰囲気がよく似たさまざまな布同士を一つひとつの立方体に張り合わせ、その感触をオノマトペで表わす試みをしていたのだが、実際には来場者向けの配布資料に「FUWA FUWA」「SHIWA SHIWA」「KIRA KIRA」といったオノマトペが載っており、来場者自身でどのオノマトペが合うのかを考える展示方法になっていた。来場者は必然的に「NUNO Cubic」に向き合い、その布の感触に想像を巡らせることになる。
同スタジオは1984年の設立以来、建築家やインテリアデザイナーらと協業してさまざまな商業施設や店舗用にインテリアファブリックを製作し提供してきた。布というと衣服や寝具を思い浮かべがちだが、実はインテリアにも布がたくさん使われている。その空間にいるときに人は布の存在をあまり意識しないが、実はそれが居心地の良さの要因にもなっている。そんな意識されない空間上の布を「NUNO Cubic」という作品に落とし込み、オノマトペを与えることで、人の意識を布に強く向けさせる。そんなしたたかな実験的インスタレーションに感心しつつ、私も純粋に楽しむことができた。
公式サイト:https://www.axisinc.co.jp/news/2021/228.html
2021/12/03(金)(杉江あこ)