artscapeレビュー

笹岡啓子「Difference 3.11」

2012年04月15日号

会期:2012/03/07~2012/03/13

銀座ニコンサロン[東京都]

ニコンサロンの連続企画展「Remembrance3.11」の第2弾。笹岡啓子は2010年4月17日に岩手県陸前高田市を撮影したのを皮切りに、岩手、宮城、福島の太平洋沿岸の各地を何度も訪れて被災地にカメラを向けた。笹岡は広島の出身なので、さまざまな場所で原爆投下直後の状況を思い起こさないわけにはいかなかったという。
だが、展示されている写真を見ると、笹岡がつとめて冷静に、そこにある光景を写しとろうと心がけている様子が伝わってくる。ハッセルブラッドに6×4.5判のデジタルCCDをつけて撮影したイメージは、細部まで丁寧に押さえられていて、その眺めを記録し、保存しておくという彼女の意志が明確に伝わってくるのだ。むしろ極力表現的な意識を抑制する態度で撮影された写真群こそが、クオリティの高い記録として残っていくのではないだろうか。もうひとつ重要なのは、展示において岩手や宮城と福島の写真の「Difference(違い)」が強調されていることだろう。瓦礫に覆われた津波の被害地と対照的に、福島県南相馬市、飯館村などの光景は、「3.11」以前とまったく変わっていないように見える。いうまでもなく、放射能汚染の爪痕がそこここに残っているわけだが、それが写真に写っていないことが逆に怖さを増幅させる。そのあたりにも、笹岡の批評意識がきちんと表われているといえるだろう。なお、本展は3月29日~4月4日に大阪ニコンサロンに巡回した。
新宿ニコンサロンでは同時期に田代一倫「はまゆりの頃に」が開催されていた。こちらは岩手県から福島県まで、被災地と内陸部の人々のポートレートを粘り強く撮影し続けた労作である。

2012/03/07(水)(飯沢耕太郎)

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