2022年08月01日号
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artscapeレビュー

Tokyo Contemporary Art Award 2020-2022 受賞記念展:藤井光

2022年06月01日号

会期:2022/03/19~2022/06/19

東京都現代美術館[東京都]

同時開催の「井上泰幸展」と「吉阪隆正展」の内覧会のときに見逃したので、あらためて見に行く。東京都とトーキョーアーツアンドスペースの主催するアワードの受賞記念展。受賞した藤井光と山城知佳子の2人展だが、ここでは藤井の作品について書く。出品作品は《日本の戦争画》と《日本の戦争美術》の2点。前者は大作ばかり153点が1セットになっているので、びっしり展示しても現代美術館の広大な1フロアの半分を埋め尽くす。《日本の戦争美術》のほうはマルチスクリーンの映像インスタレーションだが、3時間を超える長尺なので(音声のみだと12分弱)一部しか見ていない。

まず、会場入口に「日本の戦争美術展」とタイトルが掲げられ、「昭和21年8月21日-9月2日/東京都美術館/入場 占領軍関係者に限る/主催 アメリカ合衆国太平洋陸軍」と書かれている(実際は英語の下に日本語表記)。昭和21年というと、日本の敗戦後GHQが藤田嗣治らの協力の下に全国から戦争記録画を集め、東京都美術館に収蔵した時期にあたるので、その史実に基づいた架空の展覧会だろう。と思ったら、解説には「1946年に東京都美術館で、占領軍関係者に向けて開催された戦争記録画の展覧会を、アメリカ国立公文書館に現存する資料をもとに考察した映像とインスタレーションで再現します」とある。ほんとにそんな展覧会あったの? 聞いてないよ~。でも占領軍向けの非公開の展示ならありうるかも。

《日本の戦争画》は153点1セットからもわかるように、東京国立近代美術館に収蔵されている戦争記録画をすべて原寸大で再現したもの。といってもキャンバスに模写したわけではなく、ベニヤ板やカラーシート、クレート(美術品運搬用の箱)などの廃材を使って同じサイズに組み立てたものだ。1点1点すべてキャプション(これも英語が先)がついているので、ある程度知識があれば原画をイメージしやすい。例えば藤田の《サイパン島同胞臣節を全うす》は幅3.6メートルを超す横長の超大作だが、ここでは画面の9割くらいが黒い布に覆われ、上部にわずかな白い余白がのぞく構成で、崖の上で日本人たちが集団自決しようとしている原画のイメージがなんとなくオーバーラップしてくる(作者はそこまで意図してないと思うけど)。

最初の部屋はある程度余裕を持って展示しているが、通路を隔てた奥の部屋は骨組みだけの仮設壁を何枚も立て、収蔵庫のように2段がけでびっしり空間を埋め尽くしている。確か東京国立近代美術館はこれまで戦争記録画を15点以上まとめて公開したことがないが、もし153点すべて一気に見せようとすればこれだけの場所が必要だというシミュレーションとしても見ることができる。この展示のおもしろいところはそれだけではない。つぎはぎしたパネルやカラーシートを組み合わせた色面構成が並ぶさまは、まるでイミ・クネーベルかミニマルアートを思わせるため、戦争画から離れて抽象絵画として鑑賞することもできるし、また子どもが退屈したら、迷路のようなインスタレーションとして楽しむことだって可能だ。

ひとつ気になるのは、今回の展示の後これらの「作品」はどうなっちゃうんだろうってこと。「芸術作品」として153点まとめて保存されるのか、それとも再現可能なインスタレーションの素材として再び廃材に戻るのか(1点ずつバラ売りという選択肢もあり?)。これはGHQが戦争記録画を「芸術かプロパガンダか」と判断に迷ったことにもつながってくる。もし保存されるとしたら、どこがふさわしいだろう? 東京都美術館か、東京都現代美術館か、それとも東京国立近代美術館か。ま、倉庫が空いてるところだろうね。

2022/05/15(日)(村田真)

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