2022年11月15日号
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artscapeレビュー

開園40周年記念「写真で紡ぐ、思い出の中の動物園」

2022年06月01日号

会期:2022/03/19~2022/06/12

横浜市立金沢動物園[神奈川県]

黑田菜月が企画した展覧会会場に到着した。机と椅子、自販機、トイレ、ながし、掲示板があるだけのこぢんまりとした金沢動物園の休憩所に、木製の展示壁とモニターが鎮座する。仮設壁には、動物園の開館以来のユーザーたちがその思い出のメモ書きと写真を寄せていた。映像では飼育員や愛園者が写真を見つめながら黑田のインタビューに答えている。


開園40周年記念「写真で紡ぐ、思い出の中の動物園」展示風景[撮影:黑田菜月]


1982年3月17日に職員5名で部分開園してから40周年を迎えた金沢動物園の記念企画。年表の横と裏に並ぶ100通を超える来園者の物語とそれに対する飼育員の短いコメントは、日常使いされつつ多くの人々が大事にしてきた園の軌跡を描いていた。人間でいう2世代に相当する40年分の想いの丈が綴られる写真のキャプションには、動物と人間の成長と死と感謝にまつわる言葉が衒いなく書かれていた。金沢動物園はある種の動物が死んだらその種が交代で来る園ではない。うっかりすると、そのこが園にいたことを忘れてしまう。でも写真があれば大丈夫。いやでも、その写真を見返さなかったら?


開園40周年記念「写真で紡ぐ、思い出の中の動物園」展示風景[撮影:黑田菜月]


開園40周年記念「写真で紡ぐ、思い出の中の動物園」展示風景[撮影:黑田菜月]


このイベントは、愛園者による園への謝辞であり、家族写真の再編纂の場であり、親しきものや飼育動物への鎮魂の吐露の場になっていた。死を想うのではなく、たったいまの様子を伝えるような、視覚的発話としての写真(ダニエル・ルビンスタイン)というのは、SNSのプラットフォーム設計の結果、目にする機会が増えただけで、写真が想起のよすがであることは変わらず続いている。それがよくわかる。

インタビューは「写真映像で紡ぐ思い出の動物園」と写真に打ち消し線を入れてクレジットされている。ふと、映像もたくさん残っているに違いないと思い至る。しかし、映像の40年は記録媒体やフォーマットが多岐にわたり、コンバートも困難だ。その一方で、写真の出力は容易だ。この伝達の簡便さはいま写真の長所なのだろう。本展は「写真を見返すきっかけ」として何重にもわたしの胸を詰まらせた。映像はYoutubeでも視聴可能。



開園40周年記念「写真で紡ぐ、思い出の中の動物園」インタビュー映像


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