artscapeレビュー

十和田市現代美術館「名和晃平 生成する表皮」展ほか

2022年12月01日号

十和田市現代美術館、space、十和田市地域交流センター[青森県]

約1年半ぶりに、十和田市に足を運んだ。藤本壮介が設計した《十和田市地域交流センター》(2022)が、商店街の銀行跡地に新しくオープンしたからである。大きな白い壁にいくつかの矩形の開口部をもうけ、空や街の風景を切りとる建築だ。訪問した日は晴天だったから、白い壁と青い空の対比がもっともよく映えるタイミングである。壁の背後には屋内広場が展開し、夏期は中心部が噴水にもなっているという。オープニングにあわせて、大ギャラリーは、十和田市現代美術館と連携し、「名和晃平 生成する表皮」展の別会場として使われていた。ここでは表皮が物理的に安定せず、微妙に変化を続ける黒い作品群が並べられている。美術館の方では、常設の期間限定展示《PixCell-Deer#52》(2018)のほか、企画展のエリアにおいて、空気が沸きでるシリコン・オイルの新バージョン《Biomatrix(W)》(2022)、未見だった初期ドローイング群、ドットを落としていく絵画の新しいシリーズ「White Code」(2022)が紹介されていた。やはり、その創作にはさまざまな実験を伴う、理系アートというべき作品である。



名和晃平の初期のドローイング


前回と比べて、美術館の常設に新顔が加わっていた。前述の《PixCell-Deer#52》、塩田千春の赤い糸と船による《水の記憶》、そしてレアンドロ・エルリッヒによる鏡を用いた巨大な建物風インスタレーションである。3番目の作品は位置的に見落としやすいが、美術館の背後、すなわち元駐車場エリアの新棟に設置された。さまざまなホワイトキューブに固定した常設の作品を最大の特徴として登場したが、街に新しい息吹を送り込みながら、館そのものも変化している。もともと筆者は、この美術館の設計コンペの審査員をつとめていたので、完成後も成長が続いていることが喜ばしい。ちなみに、名和も、筆者が審査と展示を担当したキリンアートアワード2002(K.K.の問題作「ワラッテイイトモ、」で話題になったとき)から見続けている作家である。また十和田の街中では、船の移動をテーマとする「青柳菜摘 亡船記(サテライト会場 space)」展を複数の会場で開催中だった。この会場をめぐる途中で、ストリートファニチャーの一環として、アーティストだけでなく、マウントフジアーキテクツも鏡面の屋外ベンチを設置していたことに気づいた。



塩田千春《水の記憶》



レアンドロ・エルリッヒ《建物─ブエノスアイレス》



マウントフジアーキテクツのベンチ


名和晃平 生成する表皮

会期:2022年6月18日(土)~11月20日(日)
会場:十和田市現代美術館(青森県十和田市西二番町10-9)

青柳菜摘 亡船記

会期:2022年9月17日(土)~12月18日(日)
会場:space(青森県十和田市西三番町18-20)ほか6会場

2022/10/20(木)(五十嵐太郎)

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