artscapeレビュー
創立150年記念 国宝 東京国立博物館のすべて
2022年12月01日号
会期:2022/10/18~2022/12/11
東京国立博物館[東京都]
東博の創立150年を記念して、所蔵する国宝89点すべてを公開する特別展。会場に入るといきなり長谷川等伯の《松林図屛風》が現われる。東博だけに等伯から始めたか。国宝というからなんとなく絢爛豪華なお宝をイメージしていたのに、いきなり余白だらけのモノクロ絵画が現われたもんだから、どこが国宝やねんとツッコミたくなる。同じ部屋には久隅守景の《納涼図屛風》、渡辺崋山の《鷹見泉石像》といった教科書でおなじみの超有名作品もあるが、同時代のバロック美術やロマン主義絵画に比べればどれも地味で貧乏臭く感じられて申しわけない。
展示はその後も書跡、法隆寺献納宝物、漆工、考古、刀剣と国宝が延々と続く(ただし展示替えがあるため、この日見られた国宝は61点)。国宝オタクなら狂喜するだろうけど、ぼくが見たかったのは国宝とは関係のない、第2部の「東京国立博物館の150年」の展示。ここでは、博覧会に端を発する「博物館の誕生」、宮内省が管轄した帝室博物館(帝博)時代の「皇室と博物館」、戦後に東京国立博物館として再出発した「新たな博物館へ」の3章で、東博の150年を振り返っている。
展示品のなかでも目を引くのが、キリンの剥製だ(現在は国立科学博物館所蔵)。東博というと日本の古美術専門館のイメージが強いが、大正時代までは動物の剥製をはじめ植物の標本や化石、鉱物などの自然の産物も「天産資料」としてコレクションしていた。これは東博の前身である湯島聖堂での博覧会から受け継がれたもので、おそらくロンドンの大英博物館に倣ったのだろう。大英博物館は1881年に自然史博物館が分離するまで自然史コレクションを有しており、幕末・維新期の遣欧使節団はこれを見て、わが国でもキリンの剥製を飾ったミュージアムがほしいと願ったに違いない。しかし関東大震災で本館が建て替えられるのを機に、天産資料は東京博物館(国立科学博物館)に移管された。
ほかにも、湯島聖堂の博覧会や上野の内国勧業博覧会を描いた錦絵や写真、三代安本亀八による生人形、関東大震災の被害状況と復興本館の建設資料、皇紀2600年記念の「正倉院御物特別展」に並ぶ長蛇の列を描いた戯画、松方幸次郎がパリで一括購入し帝博に渡った浮世絵コレクションなど、珍しい資料を一気にご開帳。博覧会時代の玉石混交の見世物から組織改変、コレクションの取捨選択、施設の増改築を経て、国宝89点に至るまで縦覧できて興味は尽きない。
公式サイト: https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2529
2022/10/17(月)(内覧会)(村田真)