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すべて未知の世界へ ─ GUTAI 分化と統合

2022年12月01日号

会期:2022/10/22~2023/01/09

大阪中之島美術館、国立国際美術館[大阪府]

1950年代後半から60年代まで日本の前衛美術を牽引した具体美術協会(以下、具体)の解散50年という節目に際し、彼らの拠点となった土蔵を改造した展示施設「グタイピナコテカ」が登場した大阪の中之島において、2つの美術館が共同し、大規模な企画展を開催している。すなわち、大阪中之島美術館は「分化」、その隣の国立国際美術館は「統合」をテーマに掲げ、それぞれのアプローチによって、多様かつ独創的な活動を振り返るものだ。大阪の吉原治良が中心となって具体は活動し、大阪万博にも参加したが、関西発のアート集団として、この2館はふさわしい場所だろう。

前者の「分化」では、環境やコンセプトなどのキーワードで作品を整理し、キャプションには学芸員の解説ではなく、作家本人の言葉を入れているのだが、その内容の熱いこと! 時代の息吹を感じる。またオプアート的な作品や、百貨店の屋上でアドバルーンに作品を吊った空中展覧会=「インターナショナル スカイ フェスティバル」(11月に美術館でこれを再現しているが、未見)など、あまり知らなかった活動を学ぶことができた。そして後者の「統合」では、「握手の仕方」/「空っぽの中身」/「絵画とは限らない」という3セクションによって、絵画の拡張と解体を通じた精力的な創作活動を紹介している。作品を貸し出している館をチェックしたら、芦屋市立美術博物館が多いのは当然としても、意外に宮城県美術館も具体を所有していることに初めて気づいた。仙台に戻って、「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」を鑑賞したついでに常設に寄ったら、大阪のGUTAI 展にあわせたのか、吉原治良、田中敦子、山崎つる子、菅野聖子らの作品をまとめて出している。



白髪一雄《天雄星 豹子頭》(1959)、国立国際美術館




鷲見康夫《作品》(1961)、大阪中之島美術館 キャプションは作家の言葉を使用している 



向井修二《記号化されたトイレ》(2022)、大阪中之島美術館




「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」会場風景、宮城県美術館




菅野聖子《アルファからオメガまで1》(1970)、宮城県美術館


具体の活動は、やはり同時代の海外の動きを想像しながら見ると興味深いのだが、まさに金沢21世紀美術館で開催中の「時を超えるイヴ・クラインの想像力─不確かさと非物質的なるもの」展において関連性が紹介されていた。クラインは1950年代に日本で柔道を学んでいるが、具体にも興味をもっていたという。なるほど、その作風はものの具体性やアクション(行為の痕跡)という共通項をもつし、風船を空に放つクラインの「気体彫刻」と「インターナショナル スカイ フェスティバル」の類似性も指摘できる。なお、金沢では、早逝のクラインと関連する作家を組み合わせており、白髪一雄の作品のほか、中之島美術館と同様、細長いビニールチューブに色がついた水を入れて垂らす元永定正の「作品(水)」を天井に展示していた。かくして世界的な同時代性において、具体を再検証する試みになっている。



クライン・ブルーの顔料を使ったインスタレーション《青い雨》《ピュア・ブルー・ピグメント》、金沢21世紀美術館 光庭



元永定正《作品(水)》 、大阪中之島美術館



元永定正の展示風景、金沢21世紀美術館


公式サイト(大阪中之島美術館): https://nakka-art.jp/exhibition-post/gutai-2022/
(国立国際美術館)https://www.nmao.go.jp/events/event/gutai_2022_nakanoshima/

「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」

会期:2022年10月8日(土)〜11月27日(日)
会場:宮城県美術館(宮城県仙台市青葉区川内元支倉34-1)

「時を超えるイヴ・クラインの想像力─不確かさと非物質的なるもの」展

会期:2022年10月1日(土)〜2023年3月5日(日)
会場:金沢21世紀美術館(石川県金沢市広坂1-2-1)

2022/10/28(金)(五十嵐太郎)

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