2023年02月01日号
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artscapeレビュー

杉本博司 本歌取り─日本文化の伝承と飛翔


2022年12月01日号

会期:2022/09/17~2022/11/06

姫路市立美術館[兵庫県]

人間の創造したものに100パーセントのオリジナルはありえない。いかなる芸術家といえども多かれ少なかれ過去の創作物から影響、参照、引用、パクリ、レディメイドを行なってきた。これを杉本博司は和歌の伝統技法に倣って「本歌取り」と呼ぶ。同展は、杉本が自作のなかから「本歌取り」を選び、可能な限り本歌の古美術とともに展示するもの。杉本に倣えば「現代古美術」展というわけだ。

長大な展示室でまず目に飛び込んできたのは、杉本の《狩野永徳筆 安土城図屏風 想像屏風風姫路城図》(2022)。夜明け前の薄明の姫路城を撮った幅9メートル近いパノラマ写真で、八曲一隻に仕立てられている。これの本歌はタイトルにもあるように狩野永徳の《安土城図屏風》なのだが、オリジナルは天正少年使節によってイタリアに運ばれ、ローマ教皇に献上された後に行方不明となっているそうだ。その先の《松林図屏風》もデカイ。松林を無限遠の2倍で撮ったモノクローム写真を、6メートル強に拡大プリントして六曲一双に仕立てたもの(展示は左隻のみ)。この松林、松島や三保の松原、天橋立など各地を検分した末、皇居前の松にたどり着いたという。本歌の長谷川等伯のオリジナルは東博の「創立150年記念 国宝 東京国立博物館のすべて」にて公開中。

《廃仏希釈》と題された3体の奇妙な仏像は、蔵出しの彫刻の断片を杉本が譲り受けてつなぎ合わせ、足りない部分を月の石や恐竜の糞の化石や電球などで補修したもの。もともとは明治時代に廃棄された四天王像であり、復元する際に足りない部分をガラクタで補ったため《廃仏希釈》となった。その横には本歌として、文化庁から借りてきた四天王像が飾られている。

杉本の代表的な写真作品も出ている。たとえば「海景」シリーズの1点《英仏海峡、エトルタ》。その本歌として選ばれたのは、同じ海岸を描いた姫路市立美術館所蔵のクールベの《海》だ。フィルム上に人工的に雷を落として制作した杉本の「放電場」シリーズもある。これを六曲一双の屏風に仕立てた《放電場図屏風》(2022)。このシリーズを大胆にも襖絵に採用した建仁寺には、俵屋宗達の《風神雷神図屏風》が伝えられたという縁がある。この「放電場」の本歌として杉本が選んだのが、自身のコレクションの1点、鎌倉時代の《雷神像》だ。

同展にはマルセル・デュシャンがあちこちに影を落としているが、その核心ともいうべき《泉》に触れた作品もある。ヴェネツィア・ムラーノ島のガラス工房につくらせた《硝子茶碗 銘「泉」》(2014)だ。横倒しの便器を模した茶碗で、これで「茶のめ」てか。その作者名は村野藤六といい、杉本の敬愛する建築家からの本歌取りだ。その本歌である《泉》のオリジナルはとっくに失われているので、杉本がMoMAにあるレプリカを無限大の倍の焦点距離で撮ったピンボケ写真《Past Presence 068 泉、マルセル・デュシャン》(2014)を並置している。

笑えるのは書。杉本が揮毫し、掛け軸に仕立てた《無答故無問》と《常有他人死》の書の前には、「塩小賣所」と書かれたレディメイドの鉄板が置かれている。デュシャンピアンならわかるはず。《着服》(2022)と書かれた書には、愛用したピンクの上着を表装裂として使用。ポケットがたくさんついているのは、「着服にはポケットは多いほど良い」(杉本)からだ。《御陀仏》と《御釈迦》はいかにもな書だが、声に出して読んでみると笑ってしまう。その前には、古戦場から発掘されたとおぼしき兜が置かれている。なかから生えている夏草は須田悦弘の作品。極めつけは、「タンタン麺 九百円」「野菜炒め ハ百円」など、行きつけの町中華のためにしたためた《天山飯店 品書》。中国の守護神たちをあしらった明の時代の刺繍を表装裂に用いたという。そこまでするか。

同展は姫路だけの開催なので行くかどうか迷ったが、京都、大阪、神戸との合わせ技でなんとか訪れた。いやー、予想を超えておもしろかった。ただ時間が足りず、「圓教寺×杉本博司」をやっている書冩山圓教寺まで足を伸ばせなかったのが残念。



杉本博司《三字の名号  御陀仏》(左)、《三字の名号  御釈迦》、《阿古陀形兜》と須田悦弘《夏草》(手前)[筆者撮影]


2022/11/02(水)(村田真)

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