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横浜市公共建築100周年事業

2022年12月01日号

[神奈川県]

横浜市役所に建築課が設立されてから100周年を記念し、槇文彦の事務所が設計した8代目の新庁舎(2020)において、公共建築に関するさまざまなイベントが行なわれた。日本建築家協会 JIA神奈川を含む各種の建築関連の団体による、折り紙建築や角材とジャンボ輪ゴムで家をつくるワークショップ、ポップアップの建築への色ぬり、延長コード作り、建設重機の体験会、富士山をのぞむ最上階である31階のレセプションルームの開放などである。特筆すべきは、今回制作された100年の歴史を振り返る年表だった。市営住宅の供給や関東大震災後の復興小学校にはじまり、戦後につくられた各種の公共建築、1990年代の地区センター・地域ケアプラザ(この事業は、伊東豊雄や妹島和世など、当時はまだ公共の仕事が少なかった建築家に多くのチャンスをもたらしたことで評価できる)、そして近年の施設の長寿命化、木材利用、脱炭素社会を意識したプロジェクトまでを網羅している。改めて公共建築は、時代の変化や社会の要請を強く反映するビルディングタイプであることがよくわかるだろう。



ワークショップ会場



重機体験の展示



31階のレセプションルーム



公共建築年表


根岸森林公園のトイレ・コンペ表彰式(張昊と甘粕敦彦が受賞)の後、筆者は山家京子、小泉雅生、乾久美子、肥田雄三らと、パネルディスカッション「これまでも、これからも、横浜らしく」に登壇した。それぞれのプレゼンテーションの後、討議では、施設の複合、プロセス重視の可能性とその限界、冗長性、居場所などがトピックになった。個人的には国際コンペによってFoaが選ばれた《横浜港大さん橋国際客船ターミナル》(2002)のような衝撃的に新しいデザインの公共建築が、再び登場することを期待したい。これはせんだいメディアテークと同じ1995年にコンペの審査が行なわれ、いずれの最優秀案もコンピュータが設計に導入される新しい時代を告げるデザインが注目を集めた。が、その後、横浜では、こうした大がかりなコンペが実施されていない。むしろ、横浜の友好都市である上海の方が、新しい建築に貪欲であると同時に近代建築もよく保存し、なおかつアートが活性化しており、いまの上海の方が横浜らしいのではと思う。ところで、今年の春にも、1971年に市役所内に「都市デザイン」を担当する部署をつくったことを受け、その50周年を記念すべく、Bankart KAIKOにおいて「『都市デザイン横浜』展~個性と魅力あるまちをつくる~」が開催された。全国でもいち早く都市デザイン室が設立され、大きな成果をおさめてきたが、林市長になってから存在感が弱くなった印象を受ける。ここにもがんばって欲しい。



根岸森林公園コンペ



横浜港大さん橋国際客船ターミナル



新市役所の模型



横浜市公共建築100周年:https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/kenchiku/kokyokenchiku/kokyokenchiku100th/

『都市デザイン横浜』展~個性と魅力あるまちをつくる~

会期:2022年3⽉5⽇(⼟)〜4⽉24日(日)
会場:BankART KAIKO(神奈川県横浜市中区北仲通5-57-2 1階)

2022/11/12(土)(五十嵐太郎)

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