artscapeレビュー
田中大輔「淵を歩いて」
2023年09月15日号
会期:2023/07/22~2023/08/13
金柑画廊[東京都]
田中大輔の新作を見て、牛腸茂雄の「幼年の『時間(とき)』」を思い起こした。牛腸は生前の最後の写真集となった『見慣れた街の中で』(1981)を刊行後、以前から撮り続けてきた「子ども」の写真をまとめようとしていたが、未完に終わり、遺作として『日本カメラ』(1983年6月号)に6点の作品のみが掲載された。牛腸が「子どもの『時間』体験は、『いのち』そのものだから、その拡がりや脹らみや深さにおいて、目を見張るものがある」と書き残しているのと同じような感触を、田中の「子ども」の写真にも感じたのだ。
だが、牛腸の連作が「子ども」のポートレート(ほとんどがカメラと正対した)であるのに対して、田中は風景や事物の写真をそのあいだに挟み込んでいる。つまり、牛腸は自分と「子ども」たちとの一対一の関係を写真に刻みつけているが、田中の視線の幅はもっと大きく、彼自身を含む社会的現実をも写真に取り込もうとしているのだろう。
もうひとつ、注目すべきことは、本作が田中にとっては初めてのモノクローム作品であるということだ。田中は2016年に第15回写真「1_WALL」でグランプリを受賞しているが、受賞作も含めて、繊細に色味をコントロールしたカラー写真で作品を発表してきた。その田中がモノクロームを使い始めたのは、「子ども」と彼らを取り巻く環境をシンプルに、構造化して捉えるのには、そちらのほうがいいと判断したためではないだろうか。その試みは、とてもうまくいっていた。まさに「拡がりや脹らみや深さ」を備えた写真シリーズが、形をとりつつある。
公式サイト:https://kinkangallery.com/exhibitions/3091/
2023/07/23(日)(飯沢耕太郎)