artscapeレビュー

風景論以後

2023年09月15日号

会期:2023/08/11~2023/11/05

東京都写真美術館 地下1階展示室[東京都]

多くの観客にとっては「よくわからない展覧会」なのではないだろうか。東京都写真美術館地下1階の会場に並んでいるのは、何の変哲もないように思える日常の光景の写真、映像、映画のポスターや資料などである。しかも壁面には作品解説はまったくなく、作者名とタイトルだけ。作品についての詳しい情報を得るためには、入り口で手渡されるリーフレット(「展覧会ガイド」)か、カタログに目を通さなければならない。

不親切と言えばその通りだが、逆に昨今の、わかりやすい解説がないと安心できないような展示を見慣れた目には、その素っ気なさが逆に新鮮に思えた。何だか訳のわからない作品を見せられて、拒否反応を起こす観客もいるかもしれないが、そのことに触発され、これは一体何なのかと考え始める契機になるのではないかとも思う。

ただ、1960年代後半以降に松田政男や中平卓馬によって提起され、大島渚、足立正生、若松孝二らの試行を経て、主に実験的な映画のジャンルで展開されていった「風景論」が、その後どのように受け継がれていったのかという本展の最大のテーマが、充分にフォローされているとは思えない。「あらゆる細部に遍在する権力装置としての“風景”」(松田政男)に抗うことを求めていった「風景論」の輪郭は、例えば松田、足立らが関わった『略称・連続射殺魔』(1969)では明確に読みとれるものの、本展の最初のパートに展示された笹岡啓子、遠藤麻衣子のような現代作家の作品では、曖昧かつ拡散しているように見える。むしろかつての「風景論」の枠組みが、現代作家の風景表現において、どのように変質したのかを、もう少しきちんと検証すべきではなかっただろうか。


公式サイト:https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4538.html

2023/08/19(土)(飯沢耕太郎)

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