artscapeレビュー
篠田優「Long long, ago」
2023年09月15日号
会期:2023/08/21~2023/09/03
三浦半島・小坪の海辺の崖には、第二次世界大戦中にトーチカ(防御陣地)として利用された洞窟が残っている。篠田優は、主にそのうちの二つの洞窟を撮影した。その開口部は、自然の岩肌とコンクリートとが見極めがつかないほどに混じりあっており、「人の手によってつけられたと思しき」、引っ掻き傷のような痕跡を見ることができる。篠田は、開口部だけでなく。カメラを手にその内部まで踏み込み、残留物を含む洞窟のたたずまいを丁寧に描写していった。カラーフィルムを効果的に使っていることで、光と闇の境界のあたりの眺めが、繊細かつヴィヴィッドに浮かびあがってきた。
だが、まだやや物足りない。14点という展示作品の数も中途半端だが、被写体の捉え方にも、もっと工夫の余地があるのではないだろうか。篠田は本作を通じて「地層として形象化した遥かな時間」を捉えようとしている。だが、過去の遺物を愛でるだけでは先がない。出品作の中に1枚だけ、洞窟の中に置き去りにされたビニールボート(?)が写っている面白い写真があった。撮影場所を、三浦半島だけでなく日本各地に広げてほしいし、現代の空気感をもっと積極的に取り入れてもいいだろう。洞窟が戦時に実際にどのように使われていたのか、資料をあたって検証することも必要になりそうだ。篠田は事物を的確に、ポイントを押さえて定着できる能力の持ち主だと思う。さらなる展開を期待したい。
公式サイト:https://pg-web.net/exhibition/yu-shinoda-long-long-ago/
2023/08/24(木)(飯沢耕太郎)