artscapeレビュー

浅田政志「Canon Colors」

2023年09月15日号

会期:2023/06/24~2023/08/07

キヤノンギャラリーS[東京都]

開設50周年という区切りを迎えたキヤノンギャラリーの記念展にふさわしい企画だった。キヤノンギャラリーは、戦前の精機光学研究所以来の伝統を持つ精密機器メーカーであるキヤノンのショーケースとして機能してきたわけだが、浅田政志はその50周年記念企画に際して「キヤノンの社員さんを撮影したい」というアイディアを思いつく。実際に東京本社だけでなく、宇都宮、秋田、大阪、大分の支社にも足を運び、社員15人にカメラを向けた。

18万人を雇用する大企業としては、ほんの一部の社員のみの撮影ということだが、カメラの設計、デザイン、販売、修理などに関わる部署から被写体が的確に選ばれており、ラグビーの横浜キヤノンイーグルスの選手、パラリンピック代表のトライアスロン選手なども含めて、ヴァラエティのあるラインナップとなっていた。また、モデルたちにとって一番思い入れのあるキヤノンのカメラを使って、浅田が展示作品を撮影するという試みも面白かった。会場にはさらに、モデルたち一人ひとりの記憶に残る写真(自作を含む)も展示されていた。全体として、浅田のコミュニケーション能力の高さと、その場での思いつきをすぐに形にしていく演出力とがうまく結びついた好企画といえるだろう。

キヤノンギャラリーやニコンサロンなどの、いわゆる「メーカー系」の写真ギャラリーを取り巻く環境は決して順調とはいえない。カメラを中心とした販売戦略と結びつけていく企画を立てにくい状況であることも確かだ。とはいえ、50年という伝統を未来に活かしていく方策は、まだいろいろと考えられそうだ。次の50年への布石を打つべき時期に来ているということだろう。


公式サイト:https://canon.jp/personal/experience/gallery/archive/asada-50th-sinagawa

2023/07/27(木)(飯沢耕太郎)

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