artscapeレビュー

和田悟志「Invisible Border “China”」

2023年09月15日号

会期:2023/08/22~2023/09/03

TOTEM POLE PHOTO GALLERY[東京都]

1980年、福島県生まれで、昨年からTOTEM POLE PHOTO GALLERYのメンバーとなった和田悟志は、台湾と中国東北部(旧満洲)の風景写真を交互に発表している。今回はそのうち、中国東北部の瀋陽やハルビンを「フラットな視点」で撮影した写真群を展示していた。

和田がテーマとして選びとったのは、建物や街路の眺めから見えてくる「Border」である。フェンスや壁のようにわかりやすいものもあるが、その多くは不可視(Invisible)な存在として、風景のなかに埋め込まれている。和田は、6×7判のカメラを使って、重層的に錯綜している「Border」を、繊細な手つきで可視化しようとする。その試みはうまくいく場合もあるが、多くの場合はそれほどくっきりとは見えてこない。だがそのことが逆に、和田の作品に、紋切り型の意味づけに収束しない、魅力的なふくらみを与えているようにも見える。

2012年から開始されたというこのシリーズも、かなりの厚みを備えてきた。もうそろそろ、より大規模な個展、あるいは写真集のような形でまとめるべき時期にきているのではないだろうか。その場合には、台湾と中国東北部という二つの場所の「Border」のあり方の違いを、よりくっきりと明示する指標が必要になるだろう。人工物だけでなく、植生のような要素にも着目すべきだし、人間を集中的に撮影する必要も出てくるかもしれない。個々の「Border」の細部と、それがどんなふうに働いているのかを、もう少し丁寧に描写することも大事になりそうだ。可能性のある仕事なので、ぜひいい着地点を見つけてほしい。


公式サイト:https://tppg.jp/invisible-border-china/

2023/08/24(木)(飯沢耕太郎)

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