artscapeレビュー

野上眞宏写真集発売記念写真展「METROSCAPE」

2023年09月15日号

会期:2023/08/22~2023/09/03

ギャラリー・ルデコ 4F[東京都]

野上眞宏は1974年に渡米し、1979年からはニューヨークに居を定めた。1983年に8×10インチ判の大判カメラを購入し、マンハッタン島の周縁地域や、クイーンズ、ブルックリン、ブロンクスなどを撮影し始めた。のちに写真集『NEW YORK―Holy City』(美術出版社、1997)にまとまるこのシリーズで、野上は大判カメラとカラーフィルムの取り扱い方を身につけていった。1994年の一時帰国後、野上は2001年から2005年にかけて再びニューヨークに滞在する。この時期に、もう一度ニューヨークの街頭にカメラを向けたのが、今回ギャラリー・ルデコで発表され、オシリスから同名の写真集として刊行された「METROSCAPE: NEW YORK CITY」のシリーズである。

この時期になると、ニューヨークのタイムズスクエアの周辺は、かつてのややいかがわしい雑然とした雰囲気ではなく、小綺麗な、すっきりした外観の都市風景に変わっていた。野上は、19世紀末から20世紀初頭にかけてパリを撮影したウジェーヌ・アジェの仕事を規範として、「マクロとミクロが同時にある写真」をめざすようになる。建物や街路の「マクロ」な構造は、8×10インチ判の緻密な描写力と「アオリ」の機能を活かしてしっかりと浮かび上がらせつつ、風景の「ミクロ」な細部にも目を凝らしていく。さらに、フィルムの感度の問題でどうしてもブレてしまいがちな人物を固定するために、同じカメラアングルで3カット撮影し、特定の人物が止まって写っているスキャンデータを最終的に合成するという、アナログとデジタルを融合させた手法を編み出した。結果的に、本シリーズでは、アジェの100年後の都市風景が、くっきりと浮かびあがってきた。

ギャラリー・ルデコの会場には63×50インチ(160×125センチ)に引き伸ばした3点と、50×45インチ(125×100センチ)に伸ばした14点、計17点の写真が並んでいた、会場がそれほど広くないので仕方がないが、数百点撮影したというこのシリーズには、もう少し大きな(天井の高い)会場が必要だろう。それでも、野上の「未来の人々に2000年代初頭のニューヨークがどんな風だったのか楽しんでいただけるように写真を撮っておこう」という撮影意図は、十分に実現していたのではないかと思う。


公式サイト:https://ledeco.net/?p=19425

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