artscapeレビュー
柴田敏雄「DAY FOR NIGHT」
2023年09月15日号
会期:2023/09/02~2023/10/01
POETIC SCAPE[東京都]
柴田敏雄は、東京藝術大学大学院美術研究科を修了後の1975〜79年にベルギー・ゲントに留学した。この時期に写真作品を本格的に制作し始めた彼は、帰国後も4×5インチ判の大判カメラで日本の風景を撮影しようと試みる。ところが、ヨーロッパの風景とのスケール感の違いに戸惑いを覚え、なかなか思ったような作品に結びつかなかった。今回、POETIC SCAPEで展示されたのは、1980〜88年にかけての、その試行錯誤の時期の作品群である。
特徴的なのは、昼だけでなく、夜の眺めにカメラを向けた作品がかなり多く含まれているということだ。パーキングエリア、歩道橋、ショーウィンドウなどを被写体にした作品群は、闇に滲むイルミネーションが強調されていることもあり、どこか叙情的といってよい雰囲気を感じさせる。昼の写真にも、都市の片隅の光景を即物的、スナップ的に切りとったものがある。この時期の柴田が、自らの視線の幅を拡張することで、彼自身の写真家としてのスタイルを見出していこうともがいていたことが伝わってきた。
すでに、のちに1992年に第17回木村伊兵衛写真賞を受賞することになる「日本典型」シリーズを思わせる、客観的かつ厳密な画面構成をめざした作品も散見される。だが、ヴィンテージ・プリント3点を含む展示作品、特に夜の写真群からは、逆に柴田の写真のなかに潜んでいた別の可能性を感じとることができた。もしこの方向性を伸ばしていけば、その後の彼の写真家としてのあり方も、かなり変わっていったのではないだろうか。
公式サイト:https://www.poetic-scape.com/#exhibition
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