artscapeレビュー

ファッション・リイマジン

2023年09月15日号

会期:2023/09/22~未定

ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館 ほか[全国順次公開]

ファッション産業が地球環境に多大な負荷を与えているという問題が、最近よく取り沙汰されるようになった。地球環境だけでなく、先進国が発展途上国を搾取する構造もそこには透けて見える。華やかで、文化的で、経済を大きく動かしてきた産業ゆえに、これまで私たちは見て見ぬふりを続けてきたが、そろそろ現実を見つめ直す時が来たのかもしれない。本作は英国のファッションブランド「Mother of Pearl(MOP)」のクリエイティブディレクター、エイミー・パウニーの活動を追いかけたドキュメンタリー映画だ。おそらく日本には正規代理店が存在しないため、MOPの服を入手するには海外通販サイトなどを通じてとなり、日本人にとってはあまり馴染みのないブランドかもしれない。私自身もそうだった。が、本作を観て、俄然、MOPへの興味が湧いた。ハイファッションでありながら、サステナブルなコレクションを立ち上げた稀有なブランドであるからだ。


映画『ファッション・リイマジン』より
出演:エイミー・パウニー(Mother of Pearlデザイナー)、クロエ・マークス、ペドロ・オテギ
監督:ベッキー・ハトナー
2022年/イギリス/英語/カラー/ビスタ/100分/日本語字幕:古田由紀子/原題:Fashion Reimagined
©2022 Fashion Reimagined Ltd
配給:フラッグ 宣伝:フラニー&Co. 映倫区分:G


契機は、2017年4月に英国ファッション協議会とファッション誌『VOGUE』により、その年の英国最優秀新人デザイナーにエイミーが選ばれ、10万ポンドの賞金を授与されたことだった。当時の為替で1500万円ほどである。この大金を元手に、彼女はMOPをサステナブルブランドに変えることを決意。その決心は彼女にとって決して唐突なことではなく、実は環境活動家だった両親の下、片田舎のトレーラーハウスで育ったことが根っ子にあることが徐々に明かされる。また、当時はファストファッションが台頭した時代でもあり、「1980年代に比較して、人々は3倍以上の服を購入」「毎年、一千億もの服が作られ、その5分の3が購入した年に捨てられる」といったショッキングな事実が述べられていく。こうした不健全きわまりない状況に、彼女はNOを突きつけたのだ。


映画『ファッション・リイマジン』より ©2022 Fashion Reimagined Ltd


オーガニックで、追跡可能な原材料。動物福祉に努める。最小限の地域で、最小限の化学物質で生産。低炭素排出量……と、彼女が掲げたのはいかにも理想的な目標だ。口で言うのは簡単だが、本当に実現可能なのか。しかも18カ月後にはコレクションを発表しなければならない。彼女はそのコレクション名を「No Frills(飾りは要らない)」に決め、スタッフとともにインターネットや展示会、人づてなどで情報を必死に集め、ウルグアイの羊毛業者やトルコのオーガニックコットン製造者らを訪ねていく。全編を通してストーリーとして見応えがあり、ファッション業界の仕組みを知る機会にもなるため、最後まで目が離せなかった。英国ではMOPの影響で、サステナブルブランドへ方向転換するファッションブランドが少しずつ増えてきたとのことだが、いまだに大量の服がつくられ、捨てられる状況は続いている。本作が、まずは消費者の意識変革のきっかけになればと思う。


映画『ファッション・リイマジン』より ©2022 Fashion Reimagined Ltd



公式サイト:https://Fashion-Reimagine.jp

2023/09/03(日)(杉江あこ)

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