artscapeレビュー
「鹿児島陸 まいにち」展
2023年11月15日号
会期:2023/10/07~2024/01/08
PLAY! MUSEUM[東京都]
鹿児島陸の名前や作品はメディアやプレスリリースなどを通してこれまで目にしたことはあったが、実物を見るのは初めてだった。皿や鉢の見込みいっぱいに描かれた愛らしい花や草木、動物たちを眺めていると、心がほんわりと和んでくる。毎日の暮らしに寄り添うようにと、本展は朝に始まり夜に終わるというユニークな趣旨から「あさごはん」「さんぽ」「おやすみなさい」など一日のシーンごとで構成されていた。おかげですっかり彼の作品に魅了されてしまった。
鹿児島の作品は、いわゆる日本の伝統工芸とは表現方法が異なる。技法の説明を読むと、素地にさまざまな色の顔料で下絵付けした後に線彫りを施し、図案のアウトラインを際立たせているのだという。そもそも下絵付けでこれほどカラフルに発色させられるのかという驚きもあったが、彼の作品を特徴付けているのは多分アウトラインの明瞭さだろう。これによってパッチワーク作品のような温かみを感じるのだ。しかも絵付けした後に線彫りする手順であるため、絵が線からわずかにはみ出ていたり足りなかったりする。そこにハンドメイドらしい伸びやかさを感じる。
こうした技法だけでなく、まるで童話の世界から飛び出したかのような愛嬌たっぷりの動物たちも魅力のひとつだ。本展で秀逸だったのは、児童文学作家の梨木香歩が鹿児島の作品を見て物語を書き下ろしたという絵本『蛇の棲む水たまり』の展示である。器と言葉で物語を観賞できるようになっていて、その世界観を十分に体験できた。陶芸家のなかには初めに物語を書いて、それに基づいて器を製作する人がいるが、逆の手順とはいえ、絵に物語を感じるというのも彼の作品の特徴なのだろう。
また陶芸以外に、鹿児島はほかの職人やメーカーに図案を提供して協働でプロダクトを製作することにも積極的だ。プロフィールを読んで、その理由がよくわかった。美術大学を卒業後、インテリアショップ2社に勤め、そこでビジネスとクリエイティブを結び付ける方法を学び、さらに大量の入荷商品を見ることで品質を見極める目を養ったのだという。独創的な作品づくりとビジネスを両輪で進める力に長けていることも彼の強みである。それはどの工芸作家やクリエイターにも、いまの時代、とても必要な力だと感じる。
鹿児島陸 まいにち:https://play2020.jp/article/makoto-kagoshima/
2023/11/03(金)(杉江あこ)