artscapeレビュー
寺崎珠真『Heliotropic Landscape』
2023年11月15日号
発行所:蒼穹舎
発行日:2023/11/7
寺崎珠真(たまみ)は1991年、神奈川県生まれ。2013年に武蔵野美術大学造形学部映像学科を卒業し、これまで新宿・大阪ニコンサロン、コニカミノルタプラザ、Alt_Mediumなどで作品を発表してきた。本作が最初の写真集となる。
寺崎が一貫して撮影しているのは、里から山に入ったあたりの雑木林の風景である。特徴的な地形や植生の場所は、あえて避けているように見える。撮影の仕方も、何事かを強調するような主観的な解釈を注意深く回避し、ニュートラルでフラットな描写を心がけている。このような、特定の意味づけを欠いた風景を、緻密に描写していくような写真のあり方は、1980年代くらいから若い写真家たちによって追求され続けてきた。特に東京綜合写真専門学校や武蔵野美術大学などの出身者によく見られる。本年(2023年)5月〜6月にphotographers’ galleryで個展「風景の再来 vol.2 芽吹きの方法」を開催した小山貢弘(東京総合写真専門学校出身)の作品にも似たような傾向を感じた。
彼らの風景写真は、フレーム内に緊密かつ複雑に絡み合った「写真」の構造を完璧に構築していくことを目指している。寺崎の本シリーズでは、それに加えて、「Heliotropic=向日性の」という表題が示すように、かなり強い太陽光によって照らし出され、編み上げられていく光と影の綴れ織りが重要なテーマになっているようだ。その狙いはとてもよく実現しているのだが、そこから先はどこに行き着くのかという課題は残る。この厳密な作業を、「写真」の美学的な達成だけに限定していくのはもったいない気がする。むろん旧来の風景写真、自然写真の枠組みにおさまる必要はないが、ここから、新たな現実認識を導き出す契機を探っていってほしいものだ。
なお、2023年11月7日〜11月20日にニコンサロンで写真展「Heliotropic Landscape」が開催された。
寺崎珠真『Heliotropic Landscape』:http://tatara.sun.bindcloud.jp/sokyusha.com/corner476506/pg4778476.html
2023/11/07(火)(飯沢耕太郎)