artscapeレビュー

見るまえに跳べ 日本の新進作家vol.20

2023年11月15日号

会期:2023/10/27~2024/01/21

東京都写真美術館 3階展示室[東京都]

「見るまえに跳べ(Leap before you look)」というのはW.H.オーデンの詩のタイトル。大江健三郎が、1958年に刊行した短編集のタイトルに使ったのでよく知られるようになった。オーデンや大江健三郎の仕事と本展とのあいだに直接的な関連はなさそうだが、出品作家の作品世界とも、とてもうまく響き合っているように感じた。

熱量の大きな展覧会である。会場の入り口から淵上裕太、夢無子(むむこ)、山上新平、星玄人、うつゆみこと並ぶ展示のエネルギーの放射量はただならぬものがある。作風はバラバラだが、たしかにまず「見る/考える」前に、ともかくシャッターを切って被写体を掴みとるという姿勢は共通している。

淵上は上野界隈のやや不穏な空気感を漂わせる人物たちのスナップ、夢無子はウクライナを二度訪れて撮影した写真群を、日録的な文章とともにスライドショーで見せていた。山上は写真集『Epiphany』(bookshop M、2023)の収録作を中心に、何ものかの顕現を繊細に浮かび上がらせる。星は西成、新宿、横浜などの路上スナップに加えて、4×5インチ判のカメラで撮り下ろしたという西麻布のスナックを訪れた人たちのポートレートを出品。うつゆみこは近作の二人の娘をモデルに撮影した写真を含めて、まさに「Wunder Kammer(驚異の部屋)」(同名の写真集をふげん社から刊行)そのものというべき作品群を開陳していた。

コンセプトを丁寧にかたちにしていく営みも悪くはないが、ある意味行き当たりばったりの衝動に身を任せて「見るまえに跳ぶ」ところに、写真という表現メディアの大きな可能性があるのではないかと思う。そのことを、あらためて強く感じさせてくれた好企画だった。


見るまえに跳べ 日本の新進作家vol.20:https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4542.html

関連レビュー

うつゆみこ『Wunderkammer』|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2023年11月15日号)

2023/11/02(木)(飯沢耕太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00067300.json l 10188823

2023年11月15日号の
artscapeレビュー