artscapeレビュー
遠藤励「MIAGGOORTOQ」
2023年11月15日号
会期:2023/10/27~2023/11/05
AL TOKYO[東京都]
遠藤励(つとむ)は1978年、長野県大町市に生まれ、現在も同市に在住する写真家。1990年代からスノーボードの世界に深く関わり、その写真を撮影するようになった。スノーボーダーのライフスタイルや、彼らを取り巻く自然環境が主なテーマだったのだが、2000年代以降、雪質の変化などに地球温暖化の影響を強く感じざるをえなくなったという。同時期に、スノーボーダーたちを「部族」と捉える観点から、北極地方の人々の暮らしにも関心を深め、近年はグリーンランドを何度も訪れるようになった。そこに生きるイヌイットの人たちの暮らしのあり方、生態系、民俗・文化に及ぼす気候変動の影響などを捉えた写真群を集成したのが今回の個展である。タイトルの「MIAGGOORTOQ」(ミアゴート)というのは「犬の遠吠え」を意味する現地語だという。
会場には、氷に覆われたグリーンランドの風景、イヌイットの人たちのポートレート、イッカク猟などの写真とともに、彼らの道具、装身具、毛皮などの実物が並び、現地で録音した音声が流れていた。遠藤がそこで見たもの、経験した事柄を、できるだけ立体的に体感してもらおうという意図が伝わってきた。写真の質も極めて高い。動きの大きいスノーボードを撮影してきた経験が、ダイナミックな構図と瞬間撮影に活かされ、北の風土の光と空気感が繊細に捉えられている。被写体への向き合い方も自然体で、彼らへのリスペクトを感じさせるものになっていた。
ただ、会場の構成も展覧会のカタログとして刊行された同名の写真集も、文字情報を極力抑えているように見えることがやや気になった。一枚一枚の写真にもう少し丁寧なキャプションをつけ、遠藤が現地で感じた心の動きなども記したほうが、観客とのコミュニケーションという点ではよかったのではないかと思う。仲間内だけではなく、彼の写真を初めて見る人にもその意図がしっかり伝わる構成にしてほしかった。今後は、文字情報を中心にした冊子の刊行なども考えられるのではないだろうか。
遠藤励「MIAGGOORTOQ」:https://al-tokyo.jp/news/miaggoortoq/
2023/10/30(月)(飯沢耕太郎)