2020年02月01日号
次回2月17日更新予定

artscapeレビュー

杉江あこのレビュー/プレビュー

特別展「縄文─1万年の美の鼓動」

会期:2018/07/03~2018/09/02

東京国立博物館 平成館[東京都]

とにかく迫力いっぱいであった。かの岡本太郎が「縄文の美の発見」として、縄文土器に「いやったらしい美しさ」を見出したことは有名だ。それ以前にも柳宗悦、芹沢銈介、濱田庄司といった民藝運動の人らが縄文土偶を愛玩したことが本展で紹介されている。彼らをはじめ、縄文土器や土偶に惹かれる美術家や作家、工芸家は案外と多い。いったい何が彼らを強く惹きつけるのだろう。それは日本人のDNAのなかにわずかに残っていると言われる、縄文人の血が騒ぐからではないか。弥生人の洗練された感性とはまったく異なる、縄文人の躍動的で神秘的な力に、日本のものづくりの“本当の”源流を見たような気がした。

本展を見るまで、正直言って、私は縄文時代にまったく疎かった。歴史の教科書でさらりと触れた程度ではっきりとはわかっていない。縄文時代とは「旧石器時代が終わったおよそ1万3000年前から約1万年間続いた時代」とあらためて教わり、その約1万年間という長さに圧倒された。西暦はまだ2000年を超えたばかりである。氷期が終わりを迎えたこの時代、日本列島は温暖で湿潤な気候に変わり、豊かな自然環境のもと、人々は狩猟や漁労、植物の採集で生計を立て、皆で協力し合いながら定住生活を行なっていたという。そこで生み出されたのが土器や石器、土偶や装身具などだ。

展示風景 東京国立博物館 平成館 特別展「縄文─1万年の美の鼓動」
「火焰型土器・王冠型土器」新潟・十日町市博物館蔵

縄文時代中期を代表する土器が、新潟県十日町市で出土された「火焰型土器・王冠型土器」である。すぼんだ胴部からワッと広がる口辺部。器面に粘土が紐状や筒状に貼り付けられ、うねるように、波立つように、これでもかこれでもかと全身が模様で覆われている。しかもこの模様が自由奔放に見えて、じつは規則的に配置されていることにも驚く。本展がすごいのは、この「火焰型土器・王冠型土器」の数々がガラスケースに覆われず、生身のまま展示されていたことだ。いまにも手に触れられそうな距離で眺めると、はるか昔の縄文人の息遣いまで聞こえてきそうである。同時代にユーラシア大陸でつくられた土器も併せて展示されていたが、これらを観ると、日本列島でつくられた土器がいかに独創的なものであったかがわかる。ほかに耳飾りや髪飾りなどの装身具の数々にも息を呑んだが、最大の見どころは国宝6件。これらが一堂に会すのは初めてで(ただし《土偶 縄文のビーナス》と《土偶 仮面の女神》は7月31日からの展示なので私は観られなかった)、この貴重な機会を見逃してはならないと思う。

国宝 土偶 縄文のビーナス
長野・茅野市蔵(茅野市尖石縄文考古館保管)展示期間:2018年7月31日(火)~9月2日(日)
長野県茅野市 棚畑遺跡出土(縄文時代中期/前3000~前2000)

公式ページ:http://jomon-kodo.jp

2018/07/02(杉江あこ)

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アート&デザインの大茶会

会期:2018/06/15~2018/07/22

大分県立美術館[大分県]

茶会をテーマにした展覧会は案外多い。千利休に端を発する茶道という絶対的な様式美がアーティストやデザイナーの心をくすぐるのだろうか。本展はマルセル・ワンダース、須藤玲子、ミヤケマイによる合同展だったが、茶会のテーマにもっとも即していたのはミヤケマイだった。そこで本稿では彼女のインスタレーション作品《現代の大茶室》を取り上げたい。

ミヤケがテーマとしたのは「モダン陰陽五行」。陰陽五行説はご存知の通り中国で生まれた自然哲学で、茶道にも深い関わりがある。ミヤケはこれを独自に解釈し、「木」「火」「土」「金」「水」の五つの空間をつくり上げた。寄付から細い路地を通り抜けると、最初の茶室へと導かれる。そこは五つの空間の結節点であり、入口でもあった。茶室に上がって掛軸などの作品を観ていると、ひとつの空間の入口に明かりが灯った。明かりに導かれて足を踏み入れると、そこは「木」の空間だった。この空間の壁にはいくつものアクリル板の額がかかっており、額には松や南天、椿などの常緑樹が根っ子を付けた状態で、1本ずつ、植物標本のように収まっていた。しかも根や茎、葉は本物だが、実や花は造作というキッチュな魅力がある。中央には半畳分の茶室に見立てたロッキングチェアが置かれており、そこに正座して揺られながら、いくつもの額を借景のように眺める仕掛けとなっていた。

ミヤケマイ《SHISEIDO THE STORE ウィンドウディスプレイ》 (2018)[撮影:繁田諭]

隣の空間へ移動すると、そこは「水」の空間だった。壁には幻想的な水滴の展示があり、懐中電灯の光を当てると、それまで見えなかったメッセージが浮かび上がる。また野点傘がかかった1艘の舟があり、舟の中に座ると、それまで聞こえなかった水の音が聞こえてきた。しかも水の音は2種類あり、片側は雨の音、もう片側は波の音である。舟の中で対面する2人が互いに別々の水の音を聞くという仕掛けだ。続く「金」「火」「土」の空間でも、そうした体験型の作品が並んでいた。本来ならひとつの茶室の中にある五行をあえて別々の空間仕立てとし、鑑賞者は体験を通して、自らの脳内で五行を再構成するというインスタレーションなのである。さらにミヤケが作品を通して伝えたのは、「見えないからそこにないとは限らない」という一貫したメッセージだった。鑑賞者は何かしらの行動を起こしたり、注意を払ったりしなければ見ることができない些細な事象にハッと気づかされる。それは普段の生活に置き換えてみても然りだ。スマホの画面ばかりを見ていては季節のちょっとした移ろいにすら気づけなくなってしまう。そんな現代人への警鐘のようにも捉えられた。

公式ページ:http://www.opam.jp/exhibitions/detail/328

2018/06/16(杉江あこ)

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takeo paper show 2018「precision」

会期:2018/06/01~2018/06/03

スパイラルホール3階[東京都]

インターネットやデジタルデバイスの急速な発達によって、いま、紙はオールドメディアとなりつつある。しかし電子書籍が普及する一方で、紙の書籍がなくなることがないのは、やはり紙そのものに物質としての魅力があるからに違いない。紙の専門商社、竹尾が主催する竹尾ペーパーショウは、実に4年ぶりの開催で、わずか3日間の会期とはいえ大盛況だった。紙の可能性や未来を信じ、紙を愛してやまない人々の熱気がそこにはあった。

竹尾ペーパーショウは、毎回、さまざまなクリエイターが参加することでも話題を集めている。今回はアートディレクションをグラフィックデザイナーの田中義久が務め、会場構成を建築家の中山英之が務めた。テーマは「precision」で、ファインペーパーが持つ「精度」を意味する。ファインペーパーの開発に携わったクリエイターや製紙メーカーもさまざまだ。例えばテキスタイルデザイナーの安東陽子がデザインした「紙布」は、文字通り、紙と布との中間領域にあたる作品だった。紙を細く割いて撚り合せて糸をつくり、それを織った紙由来の布なのである。さらにそれを一定幅に割いてリボンにし、刺繍を重ねてレースのような状態に仕上げていた。テキスタイルデザイナーらしい独特の発想に驚くと同時に、紙が進出できる新たな領域を見た。

またプロダクトデザインを中心に活躍するDRILL DESIGNは、ハレの場に使える「段ボール」をデザインした。これは段ボールの表裏の紙にファインペーパーを用い、中芯に鮮やかな色紙を用いた作品だ。DRILL DESIGNはこれまでに木材と色紙を交互に積層した新しい合板「Paper-Wood」を用いた家具をデザインするなど、既存の無味簡素な素材に新たな可能性を見出してきた。美しい木口という点で、ハレの「段ボール」と「Paper-Wood」の家具は共通している。またインターネット通販が発展したことで、段ボールの需要がこれまでになく伸びていると聞く。贈答や祝事で品物を贈る際にも、運送会社を使うことが当たり前になったいま、ハレの「段ボール」の需要はきっとあるに違いない。紙がオールドメディアだなんていうのは戯言なのか。探れば、紙が活躍できる分野がまだ残されていることに気づかされた。

展示風景 スパイラルホール階段踊り場[撮影:山中慎太郎(Qsyum!)]

安東陽子《紙と布の協働, あいまいな関係》[撮影:山中慎太郎(Qsyum!)]

DRILL DESIGN《ハレの段ボール, その成型》[撮影:山中慎太郎(Qsyum!)]

公式ページ:http://www.takeopapershow.com/

2018/06/01(杉江あこ)

平田晃久展 Discovering New

会期:2018/05/24~2018/07/15

TOTOギャラリー・間[東京都]

まるで建築家の頭の中を覗いたような展覧会だった。最初のフロアには無数のスチールパイプが縦横無尽に走り、そこに建築模型が絡みつくようにしてたくさん載っていた。それは複雑にこんがらかった思考のようにも見えるし、うごめく何かの細胞のようにも見える。これは建築家の平田晃久が過去10年間に取り組んだ国内外の建築作品と現在進行中のプロジェクトを、コンセプト別に体系化した展示「思考の雲」だった。このフロアだけでは収まりきらないかのように、それは中庭まで増殖し、勢いを放っていた。壁面には平田の建築哲学が記されており、「新しい自然」「新しいかたち」「新しいコミットメント」の三つに章立てされていた。そこで気になったキーワードのひとつが「からまりしろ」である。

平田は以前より「建築とはからまりしろをつくることである」というコンセプトを打ち出してきた。「からまりしろ」とは、無論、平田が考えた造語である。おそらく「絡まり」と「代」を意味するのだろう。「代」とは糊代や縫い代というように、何かの余地を指す。つまり「からまりしろ」とは建築にさまざまなものが絡まることにより、あらたな再発見があることを示している。いったい何が絡まるのか? それは主に人間の生活や社会活動、また動植物であり、広く捉えれば周囲の環境も含まれるのだろう。平田は建築を「広義の生命活動」と捉えている。建築に人々が集まり、それを利用し、また自然風土にさらされるなかで、建築はどんどん風貌を変えていく。まるで一種の生態系のように。そうしたさまざまなものが絡める場を提供するのが、建築の役割ということなのか。

平田の代表作である公共施設「太田市美術館・図書館」や、住宅・ギャラリー「Tree-ness House」はまさに「からまりしろ」によって、人々の生き生きとした活動が実現した建築だ。上階のフロアで流れていた映像を見ても、それはひしひしと伝わる。若くて、柔軟な感性に触れられたよい機会となった。

展示風景 TOTOギャラリー・間 3階 ©Nacása & Partners Inc.

公式ページ:https://jp.toto.com/gallerma/ex180524/index.htm

2018/06/01(杉江あこ)

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JAGDA新人賞展2018 金井あき・花原正基・福澤卓馬

会期:2018/05/24~2018/06/26

クリエイションギャラリーG8[東京都]

現在、第一線で活躍するグラフィックデザイナーの多くが、過去にJAGDA新人賞を獲っている。1983年に創設されたJAGDA新人賞は、年鑑『Graphic Design in Japan』出品者の中から、毎年、今後の活躍が期待される有望なグラフィックデザイナーに贈られる賞だ。グラフィックデザイナーの登竜門と言われるだけあり、現在、その名があまり知られていなくても、受賞者は10年後、日本を代表するグラフィックデザイナーのひとりとなっている可能性が高い。そういう意味で、注目したい賞のひとつである。

「JAGDA新人賞2018」には、金井あき、花原正基、福澤卓馬の3人が選ばれた。本展はその3人の受賞作と近作の展示である。金井はコクヨのインハウスデザイナーで、同社のライフスタイルショップ「THINK OF THINGS」や、デザイン賞「コクヨデザインアワード」などのアートディレクションを手がけた経歴があり、これらのパッケージやツールなどが中心に展示された。一覧すると文具メーカーらしい賢さや品のよさを備えつつ、キャッチーさも併せ持ったデザインであることが伝わる。一方、資生堂の宣伝部に所属する花原は、企業広告や企画展ポスターなどを中心に展示していた。女性を対象にした美への訴求が前提ではあるが、そこには女性への媚びはあまり感じられず、むしろ端正なクリエイションが際立っていたのが印象的だ。

展示風景 クリエイションギャラリーG8

福澤はデザイン会社のドラフトに所属するアートディレクターで、同社のブランド「D-BROS」の商品開発をはじめ、他企業の広告のアートディレクションを手がけている。その一例としてキリンビバレッジのお茶の体験施設のロゴやツールなどが展示されていた。やはりデザインの正確さとキャッチーさを備えていて、ブレがない。全体を通して、3人とも企業とうまく仕事をしているという印象を抱いた。グラフィックデザイナーの仕事は、当然だが、クライアントがあってこそ成り立つ。よい仕事をするには、自身の能力も然りだが、何より理解あるクライアントに恵まれなければならない。その点で、受賞者たちのクライアントである日本の企業に対しても、世界に誇れるクリエイションの高さを感じる展覧会だった。

展示風景 クリエイションギャラリーG8

公式ページ:http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/201805/201805.html

2018/05/31(杉江あこ)

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