artscapeレビュー

佐藤卓 TSDO展〈 in LIFE 〉

2022年06月15日号

会期:2022/05/16~2022/06/30

ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]

グラフィックデザイナーの佐藤卓は非常にバランス感覚の良い人だと、本展を観て改めて感じた。彼は世の中に広く流通する食品などの大量生産品のパッケージをデザインしたり、またアカデミックな展覧会のディレクションに携わったりする一方で、定期的に個展を開いて自らの作品を発表し、そのユーモラスな才能を発揮している。「公と私、外と内、客観と主観、他発と自発、デザインとアートのように対照的でありながら、それらに隔たりをつけるのではなく相互に関係させている」という解説はまさにそのとおりで、本展でもそれらを対比させるように1階に個展などで自発的に制作してきた作品を展示し、地下1階にデザインの仕事を展示していた。1階の会場に入ると、牛乳のパッケージを分解しアート化した作品や、歯磨き粉のようなチューブの口を巨大化した作品など、日常生活のどこかで見たことがあるような要素を織り交ぜた、キャッチーな大型作品が目に飛び込んできてワクワクさせる。佐藤卓ウォッチャーの私としてはどれも見覚えのある作品だったが、人々の心を即座につかむ能力にはやはり長けていると感心する。


展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー1階[写真:藤塚光政]


展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー1階[写真:藤塚光政]


地下1階に降りると、これまでのデザインの仕事が整然と並んでいた。ある程度、佐藤卓およびTSDOのデザインの仕事を知っていると私は思っていたが、なかには「こんな商品まで!」と思う仕事も散見した。キャプションにはそんな気持ちを見透かしたような解説があり、参ったと思う。つまり佐藤卓の仕事としてよく語られる「ロッテ キシリトールガム」や「明治おいしい牛乳」などは、「デザインがデザインとして語られる仕事」と言えるが、実はそれに当てはまらない仕事もたくさんあることを知ったのだ。前者は往々にしてモダンデザインであることが多いが、かと言ってモダンデザインがデザインのすべてではないし、優劣を決める基準でもない。それを彼は熟知しているのだ。その点でプロフェッショナルに徹したデザイナーだと痛感する。また、別のキャプションでは地域で仕事をする際に心がけていることとして四つの事項が書かれており、そのひとつに「作品をつくらない」とあって腑に落ちた。自身の作風を第一にするデザイナーはある一定層いる。しかし佐藤卓は作品づくりへの欲求をデザインの仕事には持ち込まず、個展を自発的に開いて発表することで満たしてきたのだろう。そうしたバランスの取り方が、彼の健全さにつながっているように思えた。


展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリーB1階[写真:藤塚光政]



公式サイト:https://www.dnpfcp.jp/gallery/ggg/jp/00000787

2022/05/18(水)(杉江あこ)

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