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岩合光昭写真展 PANTANAL パンタナール 清流がつむぐ動物たちの大湿原

2022年06月15日号

会期:2022/06/04~2022/07/10

東京都写真美術館 地下1階展示室[東京都]

NHK BSプレミアムの番組「岩合光昭の世界ネコ歩き」を見ていると、私の飼い猫は「そこに仲間がいる!」と思うのか、テレビを食い入るように眺め、仕舞いには画面にパッと飛びついていく。猫の目から見ても、それだけ被写体の猫たちが自然な姿や振る舞いを見せているからではないかと推測する。最近の猫ブームも相まって、そんな“猫写真家”としてすっかり有名になった岩合光昭の写真展が始まった。しかし今回の題材は猫ではない。パンタナールの野生動物である。

正直、パンタナールがいったい何なのか、どこなのかを本展を観るまで知らなかった。それは南米大陸中央部に位置する世界最大級の大湿原である。正確に言うと「氾濫原」で、雨季に川が氾濫するため、1年の半分が水に浸かる地域なのだそう。浸水のため長らく開発ができず、雄大な自然が守られてきた幸運な場所で、約300種の哺乳類をはじめ、約1000種の鳥類、約480種の爬虫類、約400種の魚類が生息するという(しかし近年は開発や乱獲が横行し、生息数が激減)。


ジャガー ©Mitsuaki Iwago


世界中を飛び回り、野生動物を撮影してきた岩合にとって、パンタナールは魅惑的な地だったようだ。何より彼の心を捉えたのはジャガーの存在である。ジャガーは南米大陸における“百獣の王”だ。本展では、ジャガーが川に飛び込んでパラグアイカイマン(ワニ)を捕らえる瞬間の写真もあり、その迫力に圧倒された。ジャガーはパラグアイカイマンをひと噛みで仕留め、身の丈より大きい獲物を川から引きずり上げていく。一方で、別のパラグアイカイマンが魚を口にくわえているところや、サギが魚を見事に捕らえた一瞬、カピバラが草をゆっくりと食んでいる場面など、まさに自然界の食物連鎖を垣間見ることができた。しかし写真から受ける印象は弱肉強食の厳しさというより、坦々とした生きるための営みという感じだ。岩合の優しい語り口で書かれたキャプションを併せて読むと、野生動物それぞれに暮らしがあり、物語があるように思えてくる。それは動物の視線に合わせてカメラを構え、自分からではなく動物の方から近寄ってくるのを待つという彼独特の撮影スタイルによるのかもしれない。その撮影スタイルは、野生動物を撮るときでも猫を撮るときでも同じだという。豊かな生態系のなかで生きる野生動物たちの瑞々しい生命に触れたい。


展示風景 東京都写真美術館


展示風景 東京都写真美術館



公式サイト:https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4319.html

2022/06/03(金)(杉江あこ)

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