artscapeレビュー
Nature Study: MIST
2022年06月15日号
会期:2022/05/14~2022/05/22
霧(きり)と霞(かすみ)、靄(もや)の違いをあなたは説明できるだろうか。霧は1km未満の距離で見通せる微小な水滴、靄は1km以上10km未満の距離で発生する微小な水滴のことで、霞はそもそも気象用語ではないという。その一方で、春に見えるものを霞、秋に見えるものを霧と呼び分ける文化が日本にはある。言われてみれば確かに「春霞」は春の現象だし、「霧雨」は秋の雨を指す。
そんな物事の根本を考えるきっかけを与えてくれたのが本展だ。最近、その名前と活躍をよく目にするコンテンポラリーデザインスタジオ、we+のリサーチプロジェクト「Nature Study」である。彼らは独自のリサーチ手法を「アーティスティックリサーチ」と呼び、ロジカルで多層的な思考に、フィールドワークや実験、感性的なアプローチを融合することを得意とする。今回、彼らがテーマにしたのが「ミスト」だ。驚いたのは、冒頭で触れたように「言葉と文学」からも丹念にミストとは何かのリサーチを試みていた点だ。言葉を大事にし、それをデザインの起点とするデザイナーを私はこれまであまり見たことがない。なんと感性豊かな人たちなのかと好感が持てた。
またフィールドワークでは長野県中部にまたがる霧ヶ峰や、神奈川県箱根町にある大涌谷に赴いてミスト現象を自ら体験し、実験では噴霧器や湯沸かし器、ドライアイスなどで起こる現象を観察。これらが動画に収められ、公開されていた。ほかにインスピレーション源となった素材や装置、文献、さらに色水を使用したミストや、ファンで制御したミストなど実験的なプロトタイプを展示し、彼らの思考すべてを“見える化”するというユニークな発表が行なわれていた。
そして奥のスペースへ進むと、インスタレーションが待ち構えていた。薄暗い空間の中に浮かび上がるミストはとても幻想的に映る。いくつもの彼らのリサーチを共有してもらった後だからだろうか、什器から沸くミストや壁越しに見るミストが格別に感じてしまった。彼らの目論見に見事にハマってしまったようだ。丁寧で複合的なリサーチは人々の共感を得やすい。デザイナーがデザインに向き合う姿勢として、今後、そうした姿勢が強く求められるように感じた。
公式サイト:https://naturestudy.jp
2022/05/21(土)(杉江あこ)