artscapeレビュー
吉澤美香 2015「名誉・利益・恐怖」
2015年08月15日号
会期:2015/07/04~2015/08/07
ギャラリー・アートアンリミテッド[東京都]
9枚の正方形の紙に左右対称に植物模様を描き、その上に頭蓋骨、毒グモ、トロフィー、宝石といった不穏なモチーフを珍しくリアルに描いている。タイトルの「名誉・利益・恐怖」は、古代ギリシャの歴史家トゥキディデスによれば戦争を起こす三つの要因であり、頭蓋骨や毒グモは恐怖を、トロフィーは名誉を、宝石は利益を象徴しているという。戦争とか反戦とか声高に叫ぶのではなく、比喩を用いていまの政治に危機感を表明したものと受け止められる。最近、村田峰紀といいオフニブロールといい会田誠といい、若手・ベテランを問わず少なからぬアーティストが政治性を帯びた、トゲのある作品を発表するようになった。そんな世界とは無縁と思われがちだった吉澤美香がこうした作品を手がけるのは、やはりいまの日本に対して相当な危機感を抱えている証だろう。
2015/07/09(木)(村田真)