artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
曾健勇「遺失の地」
会期:2015/06/06~2015/07/11
東京画廊[東京都]
中国紙に描いた水墨画が約10点。描かれているのはロバや牛のような動物が多く、描き方はマンガチックというかメルヘンチックだが、動物の体の半分は骨になってるのが尋常ではない。これは童話の世界らしいが、中国社会を暗に批判してるんじゃね? 正面の壁には直接ロバ(馬?)を描き、その上に鳥を描いた板を立てかけている。これもなにか意味がありそうな。
2015/06/10(水)(村田真)
マグリット展
会期:2015/03/25~2015/06/29
国立新美術館[東京都]
マグリットというと、シュルレアリスムのなかでも素人受けするイラストレーターみたいな位置づけで敬遠していたが、息子が見たいというのでついて行く。しかしこうしてまとめて見ると、そう捨てたもんでもないなあと思えてくるから不思議だ。例えば、巨大岩が宙に浮かんだ《現実の感覚》。かつてはトリッキーなイメージばかり問題にして不条理だとか陳腐だとか述べていたけど、どうでもいいような背景の空と雲の色彩に着目すると、青から水色に変わるグラデーションと藤色の雲の織りなす微妙なニュアンスが美しく感じられたりする。木に顔が生えてる《不思議の国のアリス》も、樹木の描写に見られる補色を隣り合わせに置いた点描風の描写は、エドモン・クロスやマクシミリアン・リュスの点描派の絵画を彷彿させる。そういえばベルギーは20世紀以降も点描技法を継承させた国のひとつだったっけ。図らずも色彩画家マグリットを発見してしまった。
2015/06/07(日)(村田真)
トーキョーワンダーウォール公募2015入選作品展
会期:2015/06/06~2015/06/28
東京都現代美術館[東京都]
平面を中心に立体・映像も含めて683点の応募から選ばれた計89点の展示。ちょっと気になる作品をチェックしていくと、アナクロなアングライラスト風の徳永秀之《消失の対価──無能なる報酬》、背後霊がご主人さま(?)のお尻を触ってる庄司朝美《うしろ》、ガラス瓶に囲まれた少女を描く赤池千怜《アンネ・フランクに捧ぐ》など、多くが暗い絵であることに愕然とする。色彩も暗ければテーマも暗い。時代を反映して暗い絵が増えたのか、それともたまたまぼくが暗い絵に反応しただけなのか。と思ったら、最後の暗室で見た桜間級子《バラ色の人生》は、タイトルの曲に合わせて若い女性が闇のなかで踊る映像だが、女性は上半身裸で笑みを絶やさず、しかも踊ってるのはラジオ体操というなんともチグハグな作品。三島由紀夫の『近代能楽集』に出てきそうな作家名ともども(まさか本名?)、明暗も清濁も併せ呑んだたくましさに一条の光を感じてしまった。
2015/06/06(土)(村田真)
原游+清水信幸+野内俊輔「Raw Structurez」
会期:2015/05/02~2015/06/13
HARMASギャラリー[東京都]
絵画の根源に迫るような3人の作品展。絵具を物質として立体的に扱う清水も、古材を支持体として絵具を塗る野内も興味深いが、キャンバス布を描かれた画像の延長として用いる原游が群を抜く。例えばキャンバスに顔を描いて、その上辺の布を前面に折り返して髪のようにしたり、下辺から垂らした布をほどいて三つ編みにしたり。絵画を構成する物質的要素が反転して、描かれたイメージにつながってくるのだ。かつてフランスの「シュポール/シュルファス」はその名のとおり、絵画を「支持体」と「表面」に解体したが、原はそれを再び、しかもポップにつなげてしまったというべきだろう。いいね!
2015/06/06(土)(村田真)
遠藤夏香──河をきりとる
会期:2015/06/03~2015/06/15
代々木アートギャラリー[東京都]
紙にアクリルで、コンサート会場や原宿竹下口やピラミッドの前などに集う人たちを描いている。いや人たちを描いてるというより、その場の空気を描いているというべきか。人たちの輪郭線の内側には骨格や内臓を思わせるムニャムニャした線が引かれ、外側には彼らの動いた軌跡が印され、また彼らの発するオーラみたいなものがにじみ出ている。どうやら彼女は見えるものではなく、むしろ見えないものをこそ描こうとしているように思う。《起きて寝る》と題された2点組の顔の図では、起きた顔からは放射状に、寝てる顔からは同心円状に絵具が置かれ、意識の流れを暗示しているのだが、その顔は死にかけてるようにしか見えない。なんとも不気味な絵。唯一の不満はキャンバスではなく紙に描いてることだが、それも彼女によれば紙が好きとかいった趣味の問題ではなく、キャンバスが肌に合わないからなのだそうだ。こうした皮膚感覚的な偏りが彼女の表現を支えているのかもしれない。
2015/06/05(金)(村田真)