2024年02月15日号
次回3月1日更新予定

artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

国立人類学博物館、フメックス美術館、ソウマヤ美術館

[メキシコ、メキシコシティ]

久しぶりぶりの海外旅行は初訪問のメキシコと、ついでに32年ぶりに寄るロサンゼルス(LA)。なぜメキシコかというと、まだ行ったことがなくて死ぬまでに訪れたい国のひとつだから。特に息子がメキシコを舞台にしたピクサーのアニメ「リメンバー・ミー」を見て気に入っていたし、ぼくも壁画運動に関心をもっていたし。今回は取材でも視察でもなく私的な家族旅行なので、見る場所も時間も限られていたためあまり深堀りはしていない。まあいつものことだが。

LA経由でメキシコシティに到着し、翌朝さっそく訪れたのが国立人類学博物館。噴水のある広い中庭を20を超す展示室が囲むメキシコ最大のミュージアムで、スペインに征服される16世紀以前の古代文明の遺物の多くが収められているという。ところが、入館しても館内マップがないので途方に暮れる。最近は紙ではなくネットで調べろということなのか。後でわかったことだが、メキシコのミュージアムはおおむねマップや展示情報などの紙媒体を用意していないのだ。仕方なく、片っ端から展示室を見ていく。

紀元前1200年ごろからメキシコ湾岸に興った、巨大な頭部だけの石像で知られるオルメカ文明をはじめ、現在のメキシコシティ近郊に栄えたテオティワカン文明、紀元前後にメキシコ南東部で盛衰を繰り返したマヤ文明、そして15世紀に中央高地で繁栄し、16世紀にはスペインに滅ぼされたアステカ文明などの石像、レリーフ、工芸品がうんざりするほど並んでいる。興味深いのは、これらの文明が時期的にも場所的にもあまり重なっておらず、線的に連続していないこと。その割に建築も彫刻も大雑把に見れば似たり寄ったりだし、モチーフもケツァルコアトルという鳥をはじめ、ジャガー、ヘビ、頭蓋骨とほぼ共通しているので、やはり文化的にはつながっていたのだろう。現在日本を巡回中の「古代メキシコ」展にもここから多くのコレクションが貸し出されているが、そんなことは微塵も感じさせないほど充実した展示だった。



国立人類学博物館中庭 [筆者撮影]



国立人類学博物館展示風景 [筆者撮影]


Uberで高級住宅地のヌエボポランコにあるフメックス美術館へ。ここは食品会社を経営する実業家が集めた現代美術コレクションを公開する私設の美術館で、ギザギザ屋根の建物はデイヴィッド・チッパーフィールドの設計。欧米の現代美術を中心に、3分の1くらいはメキシコのアーティストの作品を混ぜている。前庭には人工的に滝が流れているが、これはオラファー・エリアソンのインスタレーション。



フメックス美術館 手前はオラファー・エリアソンの作品 [筆者撮影]


その隣にはなんと形容したらいいのか、中央がすぼんだ銀色のスツールか金床みたいな建築が建っていて、これがソウマヤ美術館。実業家カルロス・スリムのコレクションを公開するために建てられたもので、ソウマヤとはカルロスの亡き妻の名前だそうだ。設計はメキシコの建築家フェルナンド・ロメロ。その外観とは裏腹に、展示は植民地時代から近代までのメキシコ美術および近世・近代のヨーロッパ美術と、オーソドックスな品揃えだ。両館とも裕福な実業家のコレクションを公開するもので、どちらも入場無料というのがありがたい。



ソウマヤ美術館 [筆者撮影]



ソウマヤ美術館 展示室 [筆者撮影]


国立人類学博物館(Museo Nacional de Antropología):https://www.mna.inah.gob.mx/
フメックス美術館(Museo Jumex):https://www.fundacionjumex.org/en
ソウマヤ美術館(Museo Soumaya):http://www.museosoumaya.org/

2023/12/19(火)(村田真)

大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ

会期:2023/11/01~2023/12/25

国立新美術館[東京都]

夏に弘前れんが倉庫美術館で見た個展の巡回展だと思ってたら、まったく別物だというので見に行った。無料だし。作品はでかいインスタレーションが2点に映像やドローイングなど。最初の細長い部屋には花鳥紋の透かしの入った巨大な花瓶が置かれ、その内部を発光する装置が上下にゆっくりと動いていく。《Gravity and Grace》と題する作品で、花紋の影が両側の白い壁に映し出されてレース模様のように華やかだ。といいつつ、なにかしら不穏な空気を感じるのは、この花瓶の形態をもう少しずんぐりさせて末広がりにしたら、原子力発電所のかたちに近くなるからではないだろうか。その内部を放射状に光熱を発する装置が上下するところも原発と似ていなくもない。実際、大巻は原発事故に触発されてこれをつくったらしい。

原発からの連想で、今度は原子爆弾を思い出した。特にこの丸い膨らみは長崎に落とされたファットマンか。内部から強烈な光を発するところも似ている。爆心地では強烈な光によって人の影が建物の壁に残されたというが、次の部屋に展示された同作品を使ってのフォトグラムは、まさにそのことを表わしていないだろうか。花瓶には花鳥紋のほかサルからヒトへという進化のプロセスも彫られているが、よく見るとヒトからサルへという退化(?)も表わされていて、けっこう皮肉が効いている。



大巻伸嗣《Gravity and Grace》(2023)展示風景 [筆者撮影]


いちばん大きな部屋には、幅36メートルを超える薄いポリエステルの膜を水平に張り、下から風を送ってフワリフワリと浮かせる作品《Liminal Air Space - Time 真空のゆらぎ》(2023)を出している。これは原発との関連から、もはや大津波にしか見えない。どちらにも「いかにも」な効果音が入っているので、「いかにも」な気分になるのが難点か。せっかくの大作が音次第で安っぽく感じられるのだ。それにしてもこれだけの規模の個展を無料で見せるとは、国立新美術館も太っ腹だ。


大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ展: https://www.nact.jp/exhibition_special/2023/ohmaki/

2023/12/04(月)(村田真)

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第八次椿会 このあたらしい世界 杉戸洋、中村竜治、Nerhol、ミヤギフトシ、宮永愛子、目[mé]

会期:2023/10/31~2023/12/24

資生堂ギャラリー[東京都]

グループ展に出すとき、作家には、目立とうとするやつ、普段と変わらないやつ、あえて目立たないようにするやつの3種類がいる。目立とうとするやつは実力より見栄が先走るので、たいていおもしろくない。普段と変わらないやつは逆に作品に自信があり、グループ展などどうでもいいと思っているのでつまらない。やっぱりおもしろいのはあえて目立たないようにするやつだ。目立たない場所に目立たない作品を目立たないように置いて、気づいた人に「なるほど」と納得させる。でも気づかないで帰る人もいるから、イチカバチかの賭けでもあり、そこがまたおもしろい。

「椿会」は戦後、資生堂ギャラリーで始まったグループ展。2021年にスタートした「第八次椿会」のメンバーは、杉戸洋、中村竜治、Nerhol、ミヤギフトシ、宮永愛子、目[mé]の6組で、毎年テーマを決めて行なってきた。今年のテーマは「放置」と「無関心」。なんじゃそりゃ? グループ展に求められるべき統一性を踏みにじるようなテーマではないか。これはおもしろそうだ。

1階から階段を降りていくと、踊り場にミヤギフトシによる刺繍の作品があり、ふーんと思いながら通り過ぎて振り返ると、その裏にNerholの作品を発見。階段を降りた先には宮永愛子のナフタリンを使った作品があり、その隅っこの壁にもNerholの作品がひっそりと掛かっているではないか。Nerholはほかの出品作家にインタビューするため、それぞれの仕事場を訪れ、そこに生えている帰化植物を撮影し、画像を束ねて切れ込みを入れた作品を、あえて目立たない場所に展示しているのだ。

受付の前の大きな柱を避けてギャラリーに行こうとしたとき、ふと気づく。あれ? こんなとこに柱あったっけ。これは中村竜治の作品。こんなに太いのに、なに食わぬ顔して立っているからすぐには気づかなかった。柱は奥のギャラリーにもう1点、絶妙な位置に立っていて、初めて訪れる人は作品だとは思わないだろう。目立たないけど目立つというか、目立つけど目立たないというか。その柱の陰にもNerholの作品が。

目[mé]は波を立体的に切り取ったような作品を出しているが、もう1点あるはずの作品が見つからない。あっちこっち探した挙句ようやく発見したのは、床に貼られた切手大のポートレート。こりゃ踏んじゃいそうだ。ほかにももちろんフツーの作品もフツーにあったが、記憶に残るのは目立たない(がゆえに目立つ)作品だ。逆にひとりだけ目立とうとするやつがいなかったのは、作家の皆さんのお行儀がいいからなのか、それともギャラリー側の統制が効いているせいなのか。


第八次椿会 このあたらしい世界 杉戸洋、中村竜治、Nerhol、ミヤギフトシ、宮永愛子、目[mé]:https://gallery.shiseido.com/jp/tsubaki-kai/

2023/11/24(金)(村田真)

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麻布台ヒルズギャラリー、パブリックアート

麻布台ヒルズ[東京都]

11月24日にオープンする麻布台ヒルズの内覧会に行ってきた。しばらくのあいだ日本一の高さを誇る森JPタワーをはじめ、建築全体が波打つようなヘザウィック・スタジオのデザインしたガーデンプラザ、ザ・コンランショップなどの店舗が入ったタワープラザなど見どころは多いが、今回はパブリックアートとギャラリーを中心に見てきた。パブリックアートはオラファー・エリアソン、奈良美智、ジャン・ワン、曽根裕の4作家のみ。開発規模の大きさに比べれば寂しいが、1点1点はかなりお金がかかっていそうだ。

まず、JPタワーから中央広場に出る手前の吹き抜けに天井から吊るされているのが、オラファー・エリアソンの《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》というややこしい題名の作品。ぐるぐると曲線を描くように多面体をつなげたものが4点並んでいる。1点の直径は3メートルくらいあるだろうか、これは高そうだ。



オラファー・エリアソン《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》(2023)[筆者撮影]


広場に出ると、高さ7メートルくらいありそうな奈良美智の《東京の森の子》が立っている。いちばん下に顔があり、頭上に溶けたソフトクリームのような流動体がコーン状に載っている彫刻だが、ここのオリジナルではなく、どっかで見たことがある作品。

表面が鏡面仕立てなのであまり目立たないのが、ジャン・ワンの《Artificial Rock. No.109》。ゴツゴツした岩を模した彫刻で表面をステンレスで覆ったものだが、これも2006年の作品で、2016年の茨城県北芸術祭に出品されたものらしい。もっと目立たないのが、曽根裕の《石器時代最後の夜》と題された大理石の彫刻。広場に数点置かれているが、地にへばりつき、ベンチとしても使えるので見逃してしまいそう。これも2017/2023年となっているので再制作か。よく丸太を組んだ柵をコンクリートで模したフェイクの柵があるが、これは高価な大理石でフェイクをつくったもので、この場所にいちばん合っているような気がする。あとはどこに置いても同じだろ。



曽根裕《石器時代最後の夜》(2017/2023)[筆者撮影]


麻布台ヒルズギャラリーに行く途中のガーデンプラザのGallery&Restaurant 舞台裏に、加藤泉の彫刻が置かれていた。石の塊を4つ重ねて彩色したものだと思ったら、鋳造して色を塗ったものだという。石だったら床が抜けるところだが、中空の金属でも相当の重さだろう。どうせならこの作品をパブリックアートとして広場に置いたほうが目立つのに。でも麻布台ヒルズはお上品だから、こんなワイルドな作品は置かないだろうね。



加藤泉の作品(2023)[筆者撮影]


いちばん奥まった(神谷町駅からは近い)ところにある麻布台ヒルズギャラリーでは、「オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」を開催中。JPタワーにあったややこしいタイトルの作品のヴァリエーションである《呼吸のための空気》(2023)や、有機的なパターンを描くドローイングマシン《終わりなき研究》(2005)などを見て暗い部屋に入ると、幾条もの水流がストロボの点滅により連続した光の粒として感知されるという大作《瞬間の家》(2010)があって、しばし見入る。さて次の部屋は? と思ったらここでおしまい。美術館じゃなくてギャラリーだからこんなもんか。オラファーは作品も言動も優等生的でいけすかないが、こういうコジャレた街にはぴったりなのだろう。


オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期

会期:2023年11月24日(金)~2024年3月31日(日)
会場:麻布台ヒルズギャラリー
(東京都港区虎ノ門 5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザ A MB階)


麻布台ヒルズ パブリックアート:https://www.azabudai-hills.com/art/publicart

2023/11/22(水)(内覧会)(村田真)

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食とアートと人と街 2023 秋 @ヨコハマポートサイド地区

会期:2023/11/02~2023/12/02

ヨコハマポートサイド地区[神奈川県]

BankART Stationで開催中の「食と現代美術」展と同時期に、ポートサイド地区の街全体を使って行なわれる展覧会。飲食店やオフィス、屋外などさまざまな場所に作品が展示されるので、地下の一室で開催される「食と現代美術」よりワクワクするし、見応えもある。ただし各店舗のオープンしている日時がバラバラなので、なかなか1日で見て回ることができないのが難点だが。

ポートサイド地区は横浜駅の北東に位置し、バブルの時期にみなとみらい地区に道を通すために再開発された地域。駅に近いほうは「アート&デザインの街」をコンセプトにしたおしゃれなビルが建ち並ぶが、中央卸売市場のある奥のほうに行くと商店や問屋が並ぶ昔ながらのディープな風情が残り、新旧の落差が激しい。そして作品も奥のほうがおもしろい。ていうか、場所と作品とのマッチングが絶妙なのだ。

その最たるものが蔵真墨の写真展「Photogram Works in Tsutakin Store」だ。会場となった蔦金商店は明治27(1894)年から続く老舗の海苔問屋。蔵はここで扱う海苔や昆布などを用いてフォトグラムを制作した。フォトグラムとは被写体を印画紙の上に載せて直接光を当てて像を定着させる技法で、白黒の反転した1点ものの写真。海苔は黒いので反転して白くなるが、蔵はもういちど反転させて白い海苔と黒い海苔を背中合わせに展示している。蔵によれば、日本の海苔は密度が濃いので光をあまり透過せず、韓国海苔より白く写るそうだ。板海苔や刻み海苔などどれも抽象的なモノクロ画像だが、これを海苔の広告に使ったらウケるんじゃないか。ちなみにこのお店はタレントの出川哲朗の実家が経営しているそうで、道理であちこちに出川の顔があると思った。



蔵真墨「Photogram Works in Tsutakin Store」展示風景[筆者撮影]


その奥のつま正という野菜問屋のオフィスビルの壁面には、黒いテープでヘタクソな文字が書かれている。これは光岡幸一の作品で、「あっちかも」と読める。なにが「あっち」なのかわからないが、四角いビルに奔放な文字が踊っていておもしろいじゃん。さらに奥のオリマツ中央市場店では、片岡純也+岩竹理恵が店内のあちこちに作品を展示している。オリマツは弁当容器や食器類を扱う店舗で、片岡と岩竹はそこの商品を使って動くオブジェをつくったり、商品カタログの画像でコラージュしたり、店内にあるものを有効利用して作品化したのだ。これは見事。



光岡幸一の作品[筆者撮影]



片岡純也+岩竹理恵の作品[筆者撮影]


歯抜け状態の更地にも作品が点在している。BankART Stationで大作を発表した大田黒衣美は、更地にチューインガムをモチーフにした写真を展示。屋外のほうがいわくありげな怪しさがあっていい感じだ。その並びのフェンスで仕切られた更地には、ヤング荘が《スナック・フェンス》を開設している。フェンスを抜けると1坪ほどの立方体の小屋が建っているのだが、壁も床もすべて金網の工事用フェンスでできているので内部が丸見え、椅子はカラーコーン製だ。人と人とをつなぐスナックが、人と人とを隔てるフェンスでつくられているのがミソ。夜には「スナックフェンス」の看板が灯るが、ここは営業禁止のはず。やっぱり寂れた場所には怪しげな作品がいちばん似合う。


食と現代美術 Part9 ─食とアートと人と街─:http://www.portside.ne.jp/pg153.html

2023/11/21(火)(村田真)

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