2019年10月15日号
次回11月1日更新予定

artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

『東京計画2019』vol.2 風間サチコ

会期:2019/06/01~2019/07/13

gallery αM[東京都]

東京都現代美術館学芸員の薮前知子氏をゲストキュレーターに迎えたαMプロジェクト2019の第2弾は、いまどき珍しいアナクロ・アナログなモノタイプの巨大木版画を制作する風間サチコ。タイトルの「東京計画2019」は、かつて丹下健三が東京湾に海上都市を建設するという大風呂敷を広げた「東京計画1960」に基づく。というわけで、今回は丹下健三に矛先ならぬ彫刻刀の刃先を向けた作品群。

最大の作品は幅640センチにもおよぶ《ディスリンピック2680》で、2680は皇紀の年号だから西暦に直すと2020年、つまり次の東京オリンピックの開会式を揶揄したものだ。画面はほぼ左右対称で、大げさなつくりものの足下で整然と行進する人々はアリのように小さく、ファシズム臭がプンプン漂う。

ちなみに、皇紀2600年は最初の東京オリンピックが開かれるはずだった年。同じ年には万国博覧会も計画されていたが、どちらも幻に終わった。また、満州平原を走っていた超特急あじあ号を朝鮮半島、対馬海峡を経て東京までつなげようと「弾丸列車」の計画を立てていたのも同じころ。これらの計画は戦後20年ほどを経て、東京オリンピック、大阪万博、新幹線というかたちでゾンビのごとく復活・実現していく。そしてこれらに深く関わり、成功に導いたのが丹下健三だった。丹下はまた戦時中、国威発揚のための大東亜建設記念営造計画で一等を獲得するが、戦後かたちを変えて真逆ともいうべき広島平和記念公園として復活させていく。これらを踏まえて作品を見ると、また格別の味わいがある。

たとえば、青焼き風・絵巻風戯画《青丹記》。土星型UFOの環が外れて中心の球体が海に落下、それを漁師たちが陸に引き上げて、格子状に組んだヤグラの上に載せるというもの。この格子上の球体から、お台場に建つフジテレビ本社を連想してしまうのは、もちろんそれが丹下最晩年の作品のひとつだからだ。歴史を読み直す視線や、ひと味違った風刺精神もさることながら、それを白と黒だけの力強い大作に彫り込んでしまう技量も見事というほかない。

2019/06/08(土)(村田真)

BankART AIR 2019 オープンスタジオ

会期:2019/05/31~2019/06/09

BankART Station、 BankART SILK[神奈川県]

みなとみらい線の新高島駅に直結するBankARTの新スペースBankART Stationと、関内のシルクセンター1階にオープンしたBankART SILKの2カ所をアーティストたちに活動の場として提供、計31組60人以上が2カ月間制作し、その成果を見せている。BankART Stationのほうは人工光に照らし出された新しい地下空間、BankART SILKのほうは坂倉準三設計のモダンなオフィス空間で、どちらも古い倉庫を利用したBankART Studio NYKのような強固なたたずまいはなく、制作のとっかかりが少なそうな雰囲気。そんなわけで、この場所自体を主題にしたり、空間そのものから発想した作品は少ない。

おもしろかったのは、この地下空間から地上にはい出て、更地に1坪程度の白い小屋を建て、内部を真っ黒に塗って四方の壁に小さな穴を開けたカメラ・オブスクラをつくった細淵太麻紀のプラン。カメラ・オブスクラ自体は珍しいものではないが、照明を消せば真っ暗な地下のスタジオを出て日光の下でわざわざブラックボックスをこしらえるというのは、ある意味コミカルなリプレイスメント・プロジェクトと捉えることもできる。ということは逆に、BankART Stationの空間自体を巨大なカメラ・オブスクラに見立てることも可能かもしれないという思考実験でもあるはずだ。

で、実際に中に入れてもらった。まずは地上に出て、日産、資生堂、京急などのビルを横目に見ながら1ヘクタールはあろうかという雑草の生い茂る更地に入り、ブラックボックスの中へ(こうしたプロセスが重要だ)。内部は完全な闇で、ピンホールを開けると反対側の壁に倒立像が映る……はずだが、小雨で光量が少ないせいかすぐには映らず、2、3分してようやくうっすら光が見え始める程度。全体像が浮かび上がるには(つまり目が闇に慣れるまで)5分以上かかった。撮影するときも相当の時間がかかるそうだ。ピンホールは4面の壁にひとつずつ開けられているので、四方向すべてを撮影することができる(ただし開けるのはひとつずつ)。

闇の中でふと思い出したのは、元ひきこもりのアーティスト渡辺篤が、光を閉ざした箱に1週間ほど閉じこもったこと。この小屋に閉じこもって倒立した世界を見ていたら、どんなひきこもり人間が生まれるだろう。

2019/06/07(金)(村田真)

プロジェクト#04 利部志穂 Piazza del Paradiso

会期:2019/05/11~2019/06/09

アズマテイプロジェクト[神奈川県]

ぼくのアトリエから徒歩5分ほど、イセザキモールに面した伊勢佐木町センタービルの3階に、今年初めアートスペースがオープンした。横浜の繁華街には、3階建てで1階が商店という戦後まもない時期のビルがまだ残っているが、ここもそのひとつ。階段を昇ると、エッシャーを思わせる歪んだ階段が現出したり、いまどき珍しいレアな看板やポスターが貼られていたりして、昭和レトロな雰囲気を濃厚に漂わせている。その3階の奥のなぜかロフト付きの部屋と、元は印刷所だったという壁がボロボロの一室がアズマテイプロジェクトだ。

ここは名前から察せられるように、東亭順を代表とする4人のアーティストらが立ち上げた「創造的実験場」。その最初のチラシには、「貸しスペースでもなく、作品売買を目的としているわけでもなく、若手美術家を支援するつもりもなく、支援を受けて町興しに協力するわけでもなく、純粋にいま我々が観たいものを観せてもらい、我々が見せたいものを見せ、聴きたいものを聴き、会いたい人に会う機会の場として運営していく」とある。つまり社会的な義務や責任を負わず、誰からも文句をいわせず、自分たちがやりたいことをやっていくという宣言だ。これはいまの窮屈な世の中である意味とても賢い選択だと思う。大変だけどね。

今回4回目の企画展は利部志穂。天井から針金でモノを吊るしたり、床に廃材を老いたり、壁に絵を掛けたり、詩のような文章を掲げたり、この場の空気に反応したインスタレーションを見せている。2年間イタリアに滞在していたそうで、タイトルはイタリア語で「天国の広場」という意味。

2019/06/01(土)(村田真)

「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」記者発表会

会期:2019/05/27

東京国際フォーラムD7[東京都]

この秋、森アーツセンターギャラリーで予定されている「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」の記者発表会。初めにフジテレビジョン・イベント事業局長の宇津井隆氏があいさつ。「バスキア展」をやるきっかけは2000年頃、とんねるずの木梨憲武に「いまバスキアが大変なことになっている」と言われたからだそうだ。ノリさんだけに、テレビ業界っぽいノリだなあ。確かにバスキアの亡くなった1988年前後は画家としての評価はあまり芳しくなかったが、シュナーベルの監督した映画「バスキア」が公開された1990年代後半から再評価の気運が高まってきたのは事実。近年は前澤友作氏が62億円、123億円と立て続けに高額で落札したり、パリのルイ・ヴィトン財団美術館で回顧展が開かれたり(同時開催していたのは同じく満28歳で亡くなったエゴン・シーレ展)、話題にこと欠かなかった。

で、今回は「メイド・イン・ジャパン」というタイトル。作品が日本でつくられたからではなく、バスキアが勢いのあった80年代の日本に憧れ、何度か来日していたからであり、画面に「MADE IN JAPAN」と描かれた作品が出品されるからであり、また、意外と日本の公立美術館がたくさん持っているからでもある。つまり評価の低かった1990年前後のバブル期に日本が買っていたのだ。出品数は約130点。中身はともかく、点数ではルイ・ヴィトンに引けをとらない。

会期:2019年9月21日(土)〜11月17日(日)

2019/05/27(月)(村田真)

トム・サックス ティーセレモニー

会期:2019/04/20~2019/06/23

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

アメリカを巡回したトム・サックスの日本巡回展。「ティーセレモニー」は「茶道」のことで、ニューヨークのイサムノグチ美術館のために制作されたもの。トムは2012年から本格的に茶道を学んでいるそうだ。だから作者自身も日本への巡回を切望していたという。ちなみに、10年ほど前にアメリカで盛んに行なわれた保守派による「ティーパーティー」運動への批判もあるのかと思ったが、それはないみたい。

出品は大小合わせて50点近くで、平面も立体も人工的でチープな素材を使って茶の湯の世界を再構築している。エアバッグの生地の掛軸に赤地に黄色で「M」と書いた《McDonald's》、10段ほどの棚に100個ほどの茶碗が整然と並ぶ《Large Chawan Cabinet》、合板や樹脂、既製品などを組み合わせた《Tea House》、それに隣接する《Mizuya》など。等間隔に小さな穴の空いた合板を立てただけの《Tadao Ando Wall》には笑った。マジメなのかふざけているのか、おそらくマジメにふざけているのだろう。こういう脱力系のユーモアはいかにもイギリス的だが、トムはニューヨーカー。でも経歴を見るとロンドンの建築学校で学んだことがあるそうだ。納得。

2019/05/21(火)(村田真)

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