artscapeレビュー

食とアートと人と街 2023 秋 @ヨコハマポートサイド地区

2023年12月15日号

会期:2023/11/02~2023/12/02

ヨコハマポートサイド地区[神奈川県]

BankART Stationで開催中の「食と現代美術」展と同時期に、ポートサイド地区の街全体を使って行なわれる展覧会。飲食店やオフィス、屋外などさまざまな場所に作品が展示されるので、地下の一室で開催される「食と現代美術」よりワクワクするし、見応えもある。ただし各店舗のオープンしている日時がバラバラなので、なかなか1日で見て回ることができないのが難点だが。

ポートサイド地区は横浜駅の北東に位置し、バブルの時期にみなとみらい地区に道を通すために再開発された地域。駅に近いほうは「アート&デザインの街」をコンセプトにしたおしゃれなビルが建ち並ぶが、中央卸売市場のある奥のほうに行くと商店や問屋が並ぶ昔ながらのディープな風情が残り、新旧の落差が激しい。そして作品も奥のほうがおもしろい。ていうか、場所と作品とのマッチングが絶妙なのだ。

その最たるものが蔵真墨の写真展「Photogram Works in Tsutakin Store」だ。会場となった蔦金商店は明治27(1894)年から続く老舗の海苔問屋。蔵はここで扱う海苔や昆布などを用いてフォトグラムを制作した。フォトグラムとは被写体を印画紙の上に載せて直接光を当てて像を定着させる技法で、白黒の反転した1点ものの写真。海苔は黒いので反転して白くなるが、蔵はもういちど反転させて白い海苔と黒い海苔を背中合わせに展示している。蔵によれば、日本の海苔は密度が濃いので光をあまり透過せず、韓国海苔より白く写るそうだ。板海苔や刻み海苔などどれも抽象的なモノクロ画像だが、これを海苔の広告に使ったらウケるんじゃないか。ちなみにこのお店はタレントの出川哲朗の実家が経営しているそうで、道理であちこちに出川の顔があると思った。



蔵真墨「Photogram Works in Tsutakin Store」展示風景[筆者撮影]


その奥のつま正という野菜問屋のオフィスビルの壁面には、黒いテープでヘタクソな文字が書かれている。これは光岡幸一の作品で、「あっちかも」と読める。なにが「あっち」なのかわからないが、四角いビルに奔放な文字が踊っていておもしろいじゃん。さらに奥のオリマツ中央市場店では、片岡純也+岩竹理恵が店内のあちこちに作品を展示している。オリマツは弁当容器や食器類を扱う店舗で、片岡と岩竹はそこの商品を使って動くオブジェをつくったり、商品カタログの画像でコラージュしたり、店内にあるものを有効利用して作品化したのだ。これは見事。



光岡幸一の作品[筆者撮影]



片岡純也+岩竹理恵の作品[筆者撮影]


歯抜け状態の更地にも作品が点在している。BankART Stationで大作を発表した大田黒衣美は、更地にチューインガムをモチーフにした写真を展示。屋外のほうがいわくありげな怪しさがあっていい感じだ。その並びのフェンスで仕切られた更地には、ヤング荘が《スナック・フェンス》を開設している。フェンスを抜けると1坪ほどの立方体の小屋が建っているのだが、壁も床もすべて金網の工事用フェンスでできているので内部が丸見え、椅子はカラーコーン製だ。人と人とをつなぐスナックが、人と人とを隔てるフェンスでつくられているのがミソ。夜には「スナックフェンス」の看板が灯るが、ここは営業禁止のはず。やっぱり寂れた場所には怪しげな作品がいちばん似合う。


食と現代美術 Part9 ─食とアートと人と街─:http://www.portside.ne.jp/pg153.html

2023/11/21(火)(村田真)

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