artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
明和電機 ナンセンスマシーンズ展
会期:2014/01/21~2014/02/09
金沢21世紀美術館[石川県]
明和電機もデビューして20年という。そういえばすっかり忘れていたけれど、展覧会を見て思い出した。1993年に彼らが大賞を受賞してデビューしたソニーのアートアーティストオーディションで、数百点の応募作品のなかから候補作を荒選びするのをぼくも手伝ったんだ。たしか明和電機の応募作は、水槽の上に吊るされた針が時報に合わせて落下し、運が悪ければ下にいる金魚に刺さるという《ウケ-テル》。これはナンセンスながらも生死をめぐるドラマが秘められていて衝撃的だった。よく金魚愛護団体(そんなのあるか?)から抗議が来なかったもんだ。作品だけでなく明和電機というネーミングも、その制服もセンスがいいというか趣味が悪いというか、とにかくダントツだったのでよく覚えている。その後あれよあれよという間に作品を量産し、ライブを展開し、吉本興業入りして、視界から遠ざかっていった。こうして改めて作品をながめてみると、ぼくが知ってるのは初期の「魚器シリーズ」と「ツクバシリーズ」の一部だけ、つまり90年代なかばごろまでで、以後大半の作品は未知のものだった。まあ最初の瞬発力だけで十分だと思うけど。
2014/01/30(木)(村田真)
島袋道浩:能登
会期:2013/04/27~2014/03/02
金沢21世紀美術館[石川県]
島袋が能登を旅して作品をつくりるという1年間の長期プロジェクト。能登へ行くきっかけになったくちこ(ナマコの生殖巣を集めて干したもの)づくりを追ったビデオ、くちこづくりのシーズンオフにやってる鉄づくりのプロセスを実物で見せるインスタレーション、能登で拾ってきたさまざまな形態とサイズのタコツボ、音楽家の小杉武久を誘いその場にあるもので即興演奏したときの映像、風よけのために竹でつくった間垣の再現、昔なつかしいフィルムカメラのスーパー8で撮った海で遊ぶ子どもたちの映像、などを見せている。島袋は「ナマコを最初に食べた人、ナマコが食べられると思った人の想像力と勇気にはずっと前から尊敬の気持ちを持っていた……」と述べているが、これは自分のことを語っているのかもしれない。20年近く前に彼がデビューしたとき、これのどこがアートなんだろうと考え込んでしまった覚えがあるが、彼は「ナマコ(またはタコ)を最初にアートにした人、ナマコがアートになると思った人」なのだ。そしてそのとおり、彼はアーティストとしてベルリンから金沢に招かれ、タコやナマコをアートにしている。その「想像力と勇気」は尊敬に値する。
2014/01/30(木)(村田真)
柿沼康二 書の道「ぱーっ」
会期:2013/11/23~2014/03/02
金沢21世紀美術館[石川県]
昨晩中に金沢での用事を済ませ、今日は余裕で美術館へ。最近、同館では工芸とか書といったマージナルなジャンルの展覧会をやるようになった。現代美術もある意味マージナルな位置に立ってるので重なる部分もあるのだろう。ただし工芸や書の場合、否応なく伝統的な形式を引きずっているため、いくら現代美術に接近しても完全に融合できるわけではない。むしろどれだけ摩擦を生じさせるか、議論を深められるかが重要だと思う。柿沼の書は、幅5メートルを超す大作やアルファベット表記など、明らかに「書」の常識を超えている。大作では作者は紙の上に立ち、墨をたっぷり含ませた巨大な筆を力まかせに振り回すように書いていく。そのため墨のしぶきが飛び散り、ところどころ紙が破れ、ときに手足の跡が残り、しかもなにが書いてあるのか判読しがたい。これは書というよりアクション・ペインティングに近いのではないか。でも紙を水平に寝かせて筆に黒い墨(朱もある)を含ませて文字を書く、という点では書の範疇を超えてない。書としても絵画としても斬新さを評価できるかもしれないが、逆に書としても絵画としても半端さを指摘できる。このどっちつかずのコウモリ感。もともと漢字は象形文字から来ているので,アルファベットのカリグラフィより絵画形式になじみやすいのは事実だろう。なつかしい言葉でいえば、シニフィアンとシニフィエが一致している。だいたい「山」と書いて《山》と題するように、書かれた文字がそのままタイトルになっているから過不足がない。困るのは英語表記で、展覧会名にもなった「ぱーっ」は「PA-」、「一」は「ONE」に訳されているため齟齬が生じている。うーん、書というのも奥が深い。
2014/01/30(木)(村田真)
みっける ビジターセンターヨコハマ
会期:2014/01/18~2014/02/02
象の鼻テラス[神奈川県]
約40人のアーティストが横浜の街を1日歩きながらそれぞれ風景を1,000枚撮影し、それを短編映像にして発表している。師範=ディレクターはアーティストの北川貴好。作品はコマ撮りなので退屈な映画よりよっぽどおもしろいけど、映像がパカパカ変化するため見ていて疲れる。その点、タイのトーラップ・ラープジャロエンスックは画面が左右で2分割されるように撮影しているので統一感があり、見ていて疲れない。というより、彼の絵画作品と同じく世界を平面としてとらえた秀逸な映像作品になっている。でもこの展覧会でおもしろかったのは個々の作品より、展示方法だ。会場の象の鼻テラスはカフェ兼用で作品展示には向いてないため、会場内に段ボールなどでチープな小屋をいくつか建て、そのなかで上映したのだ。なかには円柱の並ぶ大倉山記念館の威容を模したショボリッパ(ショボイ+リッパ)なハウスもあり、おしゃれなテラス内でホームレスの気分に浸りながら映像を楽しめる趣向となっている。
2014/01/28(火)(村田真)
日常/オフレコ
会期:2014/01/11~2014/01/30
神奈川芸術劇場・中スタジオ[神奈川県]
いつもは神奈川県民ホールギャラリーで開いてきた企画展が、なぜか今年はKAAT(神奈川芸術劇場)でやることに。そもそも神奈川県民ホールとKAATって同じ県がやってるのに、こんな近くにつくっちゃってどうすんだ? って大きなお世話ですね。いま調べたら、県民ホールが改修工事で休館中のためKAATを借りたってことらしい。県民ホールのギャラリーもだだっ広いだけで使いにくそうだが、こちらはパフォーミングアーツ用のがらんとしたスタジオだけにもっと使いにくかったと思う。裏返せばチャレンジャブルな空間ともいえるのだが。出品作家は、グランドピアノの表面を削った青田真也、天井から数十枚のドアを吊り下げて開閉した安藤由佳子、黒い日本画を立方体に立てた梶岡俊幸、被災したカマボコ工場のアニメを流す佐藤雅晴、磁気テープを球状に巻いて天体のように見立てた八木良太の5人。作品はそれぞれ力作ながら、間仕切りもないのに各作家のテリトリーが守られていてケンカがないし、相乗効果も感じられなかった。もっと火花を散らせてほしかったなあ。
2014/01/28(火)(村田真)