artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
松本秋則展「風の演奏会」
会期:2014/02/03~2014/02/12
ストライプハウスビルM、Bフロア[東京都]
竹と和紙とモーターだけを使ったサウンドオブジェ。昨秋にもストライプハウスギャラリーで個展を開いたばかりだが、今回はギャラリーではなく、地下と半地下の2フロアを使った大規模なインスタレーションを見せている。じつはここにも再開発の波が押し寄せていて、ビルの空いたスペースを使って思い切った展示をしてもらおうとのことらしい。半地下は通りに面した窓から自然光が差し込むが、地下はわずかな照明で影を生かした展示になっている。コンピュータを使わずタイマーで動きと音を制御しているせいか、コロコロコロ……サラサラサラ……という自然音が優しく響く。
2014/02/12(水)(村田真)
岸田吟香・劉生・麗子──知られざる精神の系譜
会期:2014/02/08~2014/04/06
世田谷美術館[東京都]
明治・大正・昭和にまたがる親子3代のそれぞれの仕事を作品や資料で紹介する展覧会。3人のうちもっとも有名なのはもちろん劉生だが、次は吟香か麗子か。麗子の名はよく知られているけど、それは劉生が「麗子像」を描いたからであって、長じて画家になった麗子自身の業績によってではない。それに対し維新期の言論人・実業家である吟香は、劉生が生まれようが生まれまいが歴史に残る業績を上げた。そんな力関係がそれぞれの親子関係にも反映していて興味深い。まず、吟香と劉生とのあいだにはほとんどつながりが見えず、互いに言及することもなく、展示も独立した2人展となっている。つながりが見えるとすれば、吟香が高橋由一や五姓田ファミリーら画家たちとつきあったことくらい。ところが劉生と麗子とのあいだには、互いの展示が浸透し合うくらい強くて太いつながりが感じられる。端的な例が、麗子が幼いころに描いた自画像だ。劉生パパが「麗子像」を描いてる……かたわら、麗子自身も自分を描いていたのだ。この親子関係の濃淡の違いは年齢差や男女差に由来するかもしれない。劉生が生まれたのは吟香が58歳のときで、吟香が亡くなったのは劉生が14歳のとき。親子というより祖父と孫くらいの距離があったのではないか。また、父と息子といえば仲が悪いのが当たり前、エディプス・コンプレックスじゃないけど息子はだいたい父に反発するもんだ。それに対して父と娘となると、だらしなくもテレテレかデレデレになってしまう。実際、劉生と麗子がお互いどう思っていたのか知らないけど。
2014/02/07(金)(村田真)
第17回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展
会期:2014/02/05~2014/02/16
国立新美術館[東京都]
国立新美術館での展示を中心に、東京ミッドタウン、シネマート六本木、スーパー・デラックスなど六本木各所で上映会やパフォーマンス、トークイベントなどが開かれている。これら全プログラムを見たら(同時開催してるので不可能だが)いったい何時間かかるだろう。もちろんハナから見る気もないけどね。さて、美術館の展示を早足に見て、ロサンゼルス近郊にある43,000面ものプールをリサーチした作品とか興味深いものもあったが、いまさらながら引っかかったのは、作品が「アート」「アニメーション」「エンターテインメント」「マンガ」の4部門に分けられていること。「マンガ」と「アニメーション」が分かれているのはわかるけど、この二つは「アート」でも「エンターテインメント」でもないらしい。そして「アート」と「エンターテインメント」は一緒になれないんだ。文化庁はなにを根拠にそんな線引きをするんだろう? といまさらながら突っ込んでみたくなったのは、昨年から日展をはじめとする公募団体展の問題が表面化してきたからだ。日展の前身である文展が日本画、洋画、彫刻……と美術ジャンルを分けたことで、文部省的には美術を管理しやすくなったかもしれないが、一方でどれだけ表現の不自由が生じ、日本の美術に停滞を招いたことか、じっくり考えてみなければならない。文化庁メディア芸術祭は、21世紀の文展だ。
2014/02/06(木)(村田真)
ザ・ビューティフル──英国の唯美主義1860-1900
会期:2014/01/30~2014/05/06
三菱一号館美術館[東京都]
19世紀後半の美術というとフランスの印象派ばかりが注目されがちだが、イギリスではアーツ・アンド・クラフツ運動、ラファエル前派、唯美主義といったフランスとはまったく異なる流れがあった。その唯美主義に焦点を当てた展示。唯美主義とは産業革命によっていち早く工業化したイギリスで、粗悪な機械製品に抗い芸術と生活に美をもたらそうとした運動。いわば「芸術のための芸術」だが、作品そのものは甘ったるい表現が多く、印象派に比べればはるかに保守的でアカデミックな気がする。まあそこに退廃的な魅力を感じるんだけどね。レイトン、ホイッスラー、ムーア、アルマ・タデマといった日本ではあまり知られてない画家が紹介されているのがうれしい。ほかにビアズリーのイラスト、キャメロンらの写真、家具や陶器まで幅広く集めている。
2014/02/05(水)(村田真)
あなたの肖像──工藤哲巳回顧展
会期:2013/02/04~2014/03/30
東京国立近代美術館[東京都]
大阪の国立国際美術館からの巡回。工藤哲巳というと、ペニスとか脳とか眼球とか作品のモチーフはいたずらにセンセーショナルだし、「インポ哲学」や「腹切り」などのハプニングもあざとさを感じてしまい、ちょっと腰が引けていた。でもこうして年代順に並べられた展示を見ると、50年代のアンフォルメルに触発された渦巻くような抽象絵画に始まり、その線描が立体化して糸やヒモがからみついたオブジェとなり、そのヒモの結び目からペニス状の突起がぶら下がり、やがて身体の部分模型を箱や椅子や鳥カゴなどに収めた作品に発展し、最後は再び糸が渦巻く作品に戻っていくという変遷をたどると、けっしてセンセーションを狙ったものではなく、必然的な展開だったことがわかる。また彼特有の鼻につく泥臭さも、パリを活動拠点に選んだ工藤にとって西洋モダニズムへのアンチテーゼとして必要な行為だったことが納得できるのだ。そして驚くべきは、ほとんどの作品が美術館所蔵か個人コレクションに入っていること。とりわけ大作やインスタレーションはポンピドゥー・センター、アムステルダム市立美術館、ウォーカー・アート・センターといった海外の主要美術館に収まっているのだ。近年の戦後日本の前衛美術の再評価の機運もあるが、ここまで高く評価されていたとは正直いって意外。
2014/02/03(月)(村田真)