artscapeレビュー

岸田吟香・劉生・麗子──知られざる精神の系譜

2014年03月15日号

会期:2014/02/08~2014/04/06

世田谷美術館[東京都]

明治・大正・昭和にまたがる親子3代のそれぞれの仕事を作品や資料で紹介する展覧会。3人のうちもっとも有名なのはもちろん劉生だが、次は吟香か麗子か。麗子の名はよく知られているけど、それは劉生が「麗子像」を描いたからであって、長じて画家になった麗子自身の業績によってではない。それに対し維新期の言論人・実業家である吟香は、劉生が生まれようが生まれまいが歴史に残る業績を上げた。そんな力関係がそれぞれの親子関係にも反映していて興味深い。まず、吟香と劉生とのあいだにはほとんどつながりが見えず、互いに言及することもなく、展示も独立した2人展となっている。つながりが見えるとすれば、吟香が高橋由一や五姓田ファミリーら画家たちとつきあったことくらい。ところが劉生と麗子とのあいだには、互いの展示が浸透し合うくらい強くて太いつながりが感じられる。端的な例が、麗子が幼いころに描いた自画像だ。劉生パパが「麗子像」を描いてる……かたわら、麗子自身も自分を描いていたのだ。この親子関係の濃淡の違いは年齢差や男女差に由来するかもしれない。劉生が生まれたのは吟香が58歳のときで、吟香が亡くなったのは劉生が14歳のとき。親子というより祖父と孫くらいの距離があったのではないか。また、父と息子といえば仲が悪いのが当たり前、エディプス・コンプレックスじゃないけど息子はだいたい父に反発するもんだ。それに対して父と娘となると、だらしなくもテレテレかデレデレになってしまう。実際、劉生と麗子がお互いどう思っていたのか知らないけど。

2014/02/07(金)(村田真)

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