artscapeレビュー
ヤドカリトーキョー Vol.09「秘密の部屋──恋する小石川」
2013年09月15日号
会期:2013/08/02~2013/08/04
ヘルシーライフビル[東京都]
作品の展示場所を求めて都内を徘徊する「ヤドカリトーキョー」。その9回目の「ヤド」となったのが、小石川植物園の正面に建つ一見なんの変哲もないヘルシーライフビルだ。通常こういう場所で作品を見せるとき、壁を壊したり床をはがしたりしながら空間全体を変えてしまうような、いわゆるサイトスペシフィックなインスタレーションを期待するもんだが、ヤドカリトーキョーにはそれは期待できない。だって彼らはただヤドをカリるだけで、終わったらきれいに現状復帰して返さなければならず、ムチャはできないのだ。じゃあ貸し画廊の展示とどこが違うの?と突っ込まれるかもしれないが、カリるヤドが「フツーのビル」じゃないところがヤドカリトーキョーなのだ。今回のヘルシーライフビルも最初はフツーの事務所ビルだったらしいが、その後改装され、直前までシェアハウスとして使われていたという。シェアハウスとは敷金、礼金、保証人など不要の安くて狭いレンタルルームのことだが、だれが入居しているのかわかりにくく、一部は「脱法ハウス」とも呼ばれ、隣近所の評判はあまりよくない。このビルも2~4階の各フロアがそれぞれ約4畳ずつに細かく分割され、談話室も含めて部屋は計24室。ここに約40人のアーティストが作品を展示している。基本的に1部屋にひとり、ほかにキッチン、トイレ、シャワー、廊下などにも作品がある。だいたいみなさんおとなしく絵や写真を飾るだけだが、なかには残されたベッドや机を使ってインスタレーションしたり、トイレで映像を流したりするやつもいて楽しい。おもしろかったのはバーバラ・ダーリン(日本人)で、シャワールームではシャワーの水を出しっぱなしにし、キッチンでは大鍋に入れたチキンカレーを食べ放題に、部屋ではベッドの上にロデオマシーンを置いて、スイッチを入れるとズコズコ振動する近所迷惑な3部作を出していた。水道水を出しっぱなしにするのはかつて遠藤利克が、最近では原口典之もやってるいわば伝統芸。カレーを食べさせるというのもリクリット・ティラヴァーニャの得意技だ。ロデオもきっとなにかオリジナルがあるはず。つまりバーバラは現代美術の「名作」を場所に合わせて縮小し、広く「シェア」しようとしているのだ。まさにアートのシェアハウス。
2013/08/02(金)(村田真)