artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
佐々木健「ジーズ/フーリッシュ/シングス」
会期:2013/01/26~2013/02/23
青山|目黒[東京都]
黄緑色のテニスボールを描いた絵が5点。テニスは西洋で始まったスポーツだが、ボールはブリヂストン製。つまり、西洋発祥の文化を日本人がわがものにして遊ぶという意味では油絵(洋画というべきか)に似ている。しかも画面中央にボールを1個だけ描いてるので日の丸を想起させずにはおかない。ほかに、日本近代美術の流れをチャート化した図を模写したり、周囲に草花模様を刺繍したテーブルクロスを実物大に描いたり、数式や鉄道の路線図を拡大描写したりしている。テーブルクロスや数式・路線図は自分の家族がつくったものに基づいているそうだ。基本的に身近にある「美術のようなもの」を「そのまんま」油絵に移し替えることで「美術」にしている。でもそれがやっぱり「美術のようなもの」にとどまってるかもしれないところがおもしろい。
2013/02/05(火)(村田真)
倉敷芸術科学大学有志合同卒業制作展2013「十字路」
会期:2013/02/02~2013/02/11
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
写真ふたりに、日本画と映像がひとりずつ計4人の卒展。メンバーが少ないし、ジャンルも偏ってるけど、有志だからしかたないか。でも逆に、倉敷からは遠い首都圏で見せられるんだからもっと有志が増えてもいいのに、とも思う。まあ首都圏といっても横浜の海岸の倉庫だけどね。作品は、開いた本のかたちの反立体スクリーンにプロジェクターの映像を当てる中島絵里香の《本の上の映画館》が示唆的。iPadも含めて、本というアナログ形式とデジタル情報のせめぎ合いにはまだまだ考える余地があると思う。
2013/02/02(土)(村田真)
DOMANI・明日展2013
会期:2013/01/12~2013/02/03
国立新美術館[東京都]
文化庁芸術家在外研修の「成果」を発表する12人の展覧会。といっても派遣された年も国もバラバラだし、ジャンルも絵画・彫刻から、写真、工芸、アニメまで散らばってるので、なんの統一感もない。しかも出品作品は海外で制作されたものとは限らないので、「研修の成果」といいつつ実際には文化庁が選んだ作家たちの個展の集合体と見たほうがいい。これじゃ同時期に別の部屋でやってる「アーティスト・ファイル」と変わんないじゃん。そう、見る側にとっては枠組みなどどうでもいいのだ。絵画は日本画の神彌佐子、リアリズムの橋爪彩と小尾修、細密画の池田学の4人。日本画が抽象で、あとは具象というねじれがおかしい。同じリアリズム絵画でも昔ながらの技法による小尾に対して、美術史や映像イメージを採り入れた橋爪には新しさを感じる。池田の細密なペン画は有無をいわせず圧倒的で、最後にもってきたのは正解だった。あとは、古着の糸を解いて上から吊るした平野薫と、おびただしい数の古靴を赤い糸で結んだ塩田千春のふたりに注目。どちらも糸つながりで、なぜ女性作家は糸を使うのか興味をそそるところ。それはともかく、塩田のインスタレーションはこんなブース内ではなく、大きな会場で個展で見るに限るなあ。
2013/02/02(土)(村田真)
『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの』
「小さな大コレクター」として話題を呼んだ映画『ハーブ&ドロシー』の続編。前回は、狭いアパート暮らしのハーブとドロシー夫妻がコツコツと現代美術作品を集め、2千点以上に増えたのでワシントン・ナショナルギャラリーに寄贈したものの、その後もさらにコレクションが増え続けていくというおとぎ話のようなドキュメンタリーだった。今回は、そのナショナルギャラリーが1館では全作品を受け入れられず、全米50州の美術館に50点ずつ分配するという「50×50」プロジェクトを実施し、夫妻が各美術館を訪れるというストーリー。前回は、いかにもアウトサイダー的な風貌と嗜好をもつ夫妻の突出したキャラと、高尚で計算高いアートワールドとの対比や、ミニマル・コンセプチュアルに偏ったおびただしい量のコレクションと、カメやネコも飼ってる狭いアパートとのギャップを映し出すだけで、つまり素材の新奇さだけで十分に楽しめたが、今回はそこに「50×50」という立体的な骨組みが与えられたため、映画自体にも構造的に奥行きが出てきて見ごたえがあった。この続編の編集中ハーブが亡くなったため、急遽方向転換してつくり直し、図らずも完結編となってしまったという。ところで、映画のなかの話だが、夫妻がナショナルギャラリーに寄贈した理由のひとつは、コレクションが分散する心配がないからだったはず。それを50州に分散させてしまうというのはいかがなものか。そもそも彼らのコレクションの約8割は紙の作品(ドローイングや水彩や版画など)で、油絵や立体は2割にすぎず、それも小品に限られる。これらにどれほどの価値があるかは知らないが、少なくとも「ミュージアムピース」と呼べないだろう。しかもそのうち価値の高いものはナショナルギャラリーが取っといて、残りを50州に分けた(厄介払いした?)と陰口をたたく人もいる。まあそこまでは詮索すまい。3月30日より新宿ピカデリー、東京都写真美術館などでロードショー。
2013/02/01(金)(村田真)
田口和奈+岩永忠すけ「THE CRIMSON SUN」
会期:2013/01/26~2013/03/02
シュウゴアーツ[東京都]
自分で描いた絵を写真に撮る田口と、筆触もあらわなペインティングの岩永による2人展。ずいぶん性質の異なる作品だから会場を分けてるのかと思ったら、ごちゃ混ぜに展示しているので驚いた。ごちゃ混ぜだから驚いたのではなく、ごちゃ混ぜなのにぜんぜん不自然に感じられないから驚いたのだ。経歴を見るとふたりは同年生まれで、同じ年に東京藝大の博士課程を修了している。今回は田口が岩永に呼びかけたそうだが、気心が知れてるとかそういうレベルでこんなに作品が解け合うものではないだろう。作品の見た目や手法の違い以上になにか共通するものがあるに違いない。
2013/02/01(金)(村田真)