artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

桂ゆき展──ある寓話

会期:2013/04/06~2013/06/09

東京都現代美術館[東京都]

大正末の女学生時代のスケッチから、平成初期の遺作まで、60余年におよぶ彼女の画業はすっぽり昭和という時代を包み込む。スッゲ。もっとスッゲーのは、彼女の作品からは昭和美術史の香りがあまり感じられず、彼女の3本柱ともいうべき「細密描写」「コラージュ」「戯画的表現」がひたすら繰り返されていることだ。とくに感心するのは細密描写とコラージュの関係で、戦前にはコルクのコラージュと、それを克明に描いたトロンプ・ルイユ(騙し絵)のような細密描写もある。ほかにも布地や新聞紙などがコラージュと見まがうような細密描写で描かれていて、両者は補完的な関係にあったようだ。わからないのは童画チックな戯画的表現で、細密描写の絵に突然ポコンと人の顔や目玉が現われたりするのでズッコケてしまう。これがなければもっと高く評価されただろうに。と思うのはモダニズムに毒されてる証か。

2013/04/05(金)(村田真)

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フランシス・アリス展(第一期:メキシコ編)

会期:2013/04/06~2013/06/09

東京都現代美術館[東京都]

アリスちゃん、ぜんぜん知りませんでした。カワイイ名前だけど、50すぎのベルギー野郎で、ヴェネツィアで建築を学び、兵役でメキシコに飛ばされて気に入り、そのままメキシコシティに住みついたコスモポリタンだ。昨年のドクメンタ13にも参加したそうだけど、サテライトのカブール会場で映像を見せたらしい。最初は建築家として活動していたが、30歳ごろからアーティストとして作品を発表。記者会見で本人が語ったところによれば、メキシコシティは飽和状態を超えた大都市だが、この都市に直接的な関わりをもちたかったので建築よりアートを選んだのだという。どんなことやってるかといえば、路上で巨大な氷の固まりを溶けるまで押していったり、拳銃を手に繁華街をさまよい歩いたりする映像だ。これって、美大生ならだれもがやった(またはやろうとした)おバカなストリートパフォーマンスと変わりないじゃん。いったいどこが違うのかというと、彼がおふざけでも冷やかしでもなく、最初からアートワールドを目指して戦略的にやってること。そのためにメキシコの歴史や社会問題を読み解き、アート表現として構築していることだ。つまりプロの仕事ってことですかね。いやーほんと、アートってわけがわかりませんな。

2013/04/05(金)(村田真)

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トーキョー・ストーリー2013 第1章「今、此処」

会期:2013/03/09~2013/04/29

トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]

2012年度のTWSのクリエーター・イン・レジデンスに参加したオル太、二藤建人、潘逸舟という3組のアーティストによる成果発表展。オル太は相変わらずプリミティヴでダイナミックなパワーにあふれている。《大地の消化不良》というインスタレーションは、「歯並び」で囲った領域に塩を敷きつめ、水を噴き出す便器や、真っ二つに切った牛(ハリボテ)や、フジツボにおおわれた「貝爺」などを配したもの。便器はデュシャン、真っ二つの牛はデミアン・ハーストを連想させる。第1次産業的労働から一歩アートに近づいたけど、妙に洗練されることもなくワケのわからないパワーが健在でなによりだ。潘は2本の映像作品。ひとつは、岩山のような大きな石がわずかに動くという映像で、これは自分と同じ重さの石を身体の上にのせて撮ったという。もうひとつはその石を船にのせて撮ったもので、これは石は動かず、背景の海がゆっくり動く。思索的なモノクローム映像だが、こういうのは70年代にさんざん見た。二藤は直径5メートルほどの巨大な器を出品。その内側には手足の凸型が浮き上がってちょっとグロだが、凸型ということは砂か泥の山に手足を突っ込んでその上から石膏をかぶせて型どったものだろう。こいつもオル太に劣らずダイナミックだが、二藤のほうがより彫刻原理に肉薄している点でアート濃度が高い。


"大地の消化不良" オル太 [at TWS本郷]

2013/04/03(水)(村田真)

物質と彫刻──近代のアポリアと形見なるもの

会期:2013/04/02~2013/04/21

東京藝術大学大学美術館陳列館[東京都]

藝大彫刻科主催の企画展。1997年に始まり今回8回目というから、約2年にいちど開いてきたわけだ。まず入って右の部屋には、角田優の放射線を感知して視覚化する装置が置いてある。この装置自体を彫刻と見るか、宙を行き交う放射線を彫刻行為ととらえるか、視覚化された放射線を彫刻とするか。なーんて考えながらしばらく見ていたが、なんの変化もなかったので放射線は検出されなかったようだ。故障してたのかも。福島にもっていけばもう少し活躍するかもしれない。宮原嵩広の《リキッド・ストーン》は、表面に透明樹脂を塗った4枚の正方形の大理石を床に並べたもの。台座のようでもあるが、床に置いた額縁絵画にも見えなくはない。そのうちの2枚は中央に穴が開き、乳白色のシリコンが満ちたり引いたりしている。これはちょっと揺さぶられるなあ。森靖による木彫のサンタクロースみたいなおっさん像もすごい。よく見るとヒゲの下から巨大なペニスが生え、突き上げた両親指は乳房になり、脚は4本も生えている(これは安定を保つため?)。こういう陽気でキッチュでグロテスクな彫刻ってあまり見ないなあ。オイルの匂いが漂う2階には袴田京太朗による「複製」シリーズが並んでいる。これはバットや布袋さまの置物をいくつかに分割し、欠けた部分に色鮮やかなアクリル板を補って再生したもの。つまりクローンのように同じようなもの(材質は違う)を増やしてるわけだ。遺伝子再生にまで思いが飛ぶ。いちばん奥の部屋には匂いの発生源である原口典之のオイルプールがドーンと置かれている。表面が一分の狂いもなく水平を保ち、圧倒的迫力。もう何度も見ているのにあらためて感心してしまう。同展はタイトルともどもこの作品のために企画されたといっても過言ではないだろう。

2013/04/03(水)(村田真)

石ノ森萬画館

[宮城県]

石巻に1泊し、翌朝自転車を借りて海寄りの南浜町や旧北上川の対岸へ行ってみる。瓦礫はずいぶん少なくなったが、ポツンポツンと半壊の家が残るだけであとは土台だけの殺風景な元住宅地は、ほとんどそのまま変わってない。遠目には新築そのままでビクともしてないように見える市立病院と文化センターも、近づいてみると解体工事が始まろうとしていて心が痛む。そんななか、旧北上川の中州に建つ卵形の屋根の石ノ森萬画館が先週リニューアルオープンしたというので、のぞいてみることに。さっそく入口のスロープに「龍神沼」の原画コピーが貼り出されている。忘れもしない『マンガ家入門』に「作例」として載っていた作品だ。当時マンガ家志望で石森章太郎の大ファンだったぼくは、この本をむさぼるように繰り返し読んだものだ。しかし2階の展示室は案の定「仮面ライダー」に支配されていて楽しめなかった(3階は「サイボーグ009」で、こちらは懐しかった)。たどってみると、ぼくが石森章太郎に耽溺したのは60年代までで(「ボンボン」「となりのたまげ太くん」「ミュータントサブ」「サイボーグ009」「ファンタジーワールドジュン」……)、70年になるまでに終わっていたということがわかった。もう40年以上も前だよおおお。

2013/03/29(金)(村田真)