artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

岡村桂三郎 展

会期:2013/03/04~2013/03/16

コバヤシ画廊企画室[東京都]

地下に降りていくと、薄暗い画廊空間に巨大な屏風状の壁が突っ立っている。奥の壁面にドーンと1点、左右はやや斜め前を向いて各1点ずつ。つまり舞台装置のように正面性のあるインスタレーションになっているのだ。さらに屏風状のパネルは画廊の床と似たような木の板を使い、似たような色艶を出し、画廊空間にピッタリ収まるサイズでつくられている。コバヤシ画廊ではもう10年以上毎年個展を開いているので、勝手知ったる展示空間なのだ。これはコバヤシ画廊のためにつくられた、コバヤシ画廊でしか成立しないインスタレーションといっていい。でもそれじゃ売れないじゃん。

2013/03/14(木)(村田真)

トリックス・アンド・ヴィジョンからもの派へ

会期:2013/03/09~2013/04/06

東京画廊[東京都]

もの派の誕生をうながしたともいわれる1968年の伝説的な展覧会「トリックス・アンド・ヴィジョン」を再考する展示。「トリックス・アンド・ヴィジョン」はタイトルからうかがえるように、目の錯覚をとおして「見る」とはなにかを問い直す企画展。中原佑介と石子順造が選んだ高松次郎、中西夏之、堀内正和、柏原えつとむ、岡崎和郎、鈴木慶則、関根伸夫らが、東京画廊と村松画廊の2会場に出品した。今回は可能なかぎり当時の作品に近いものや、関連する作品を集めている。キャンバスを縦半分に切り、片方を裏返してつなげた(ように描いた)鈴木慶則の《裏返しの相貌をした非在のタブロー》のようなトリックアートから、立方体の木のかたまりを焼いて炭にした成田克彦の《SUMI》のようなもの派まであって、水と油のようなトリックアートともの派が入り乱れているところがおもしろい。その中間のグレーゾーンにいたのが高松次郎と関根伸夫だったようだ。ところで、東京画廊は最近50~70年代の現代美術を回顧するような企画展を連発しているが、これはもちろん商売を度外視した啓蒙活動などではなく、海外から具体やもの派をはじめとする戦後日本の現代美術に熱いまなざしが注がれているからだ。しかし残念ながら日本では関心が高まる気配がない。これではまた海外に持ってかれちゃうぞお。

2013/03/14(木)(村田真)

世界記憶遺産の炭坑絵師──山本作兵衛 展

会期:2013/03/16~2013/05/06

東京タワー1階特設会場[東京都]

2年前、日本初の世界記憶遺産に登録された山本作兵衛の炭坑の記録画が、なぜか東京タワーで展示される。これは、作兵衛が炭坑を描き始めたのが東京タワーの完成とほぼ同じころだったという縁らしい。もちろん炭鉱も東京タワーも日本の近代化のシンボルだからとか、東京タワーは立坑櫓をデカくしたようなものという含意もあるかもしれない。午前11時からの内覧会に行ってみたら、概要説明の後IKKOさんが特別ゲストとして登場。炭坑の絵を見に来たのになんでオネエのトークなんか聞かなきゃいけないんだと憤りつつ聞いてたら、IKKOさんは炭鉱の街田川の生まれだそうだ。こんど川俣と対談やらせてみたい。ようやく展示会場へ。おーあるある、坑内の労働や坑夫の生活を描いた水彩画が……と思ったら、あれれ? よく見ると印刷じゃないか! 最初の10点は複製画の展示で、その後の59点はホンモノの原画だという。作兵衛が炭坑の絵を描いたのは、現場を離れた60代なかばから92歳で亡くなるまでの30年近くで、そのあいだに何点の作品を残したのか不明だが(千点以上といわれる)、世界記憶遺産に登録されたのは日記や資料も含めて697点。いったん登録されると外部への出品が制限されるため、今回展示されている原画はそれ以降に発見された作品などだそうだ。まあとにかく、これらの絵には現代絵画が置き去りにして来た奔放な視覚表現が息づいている。同じ絵を何枚も繰り返し描いていること、説明文や唄の歌詞を画面の余白に書き込んでいること、人物のポーズや表情がパターン化していること、着物の柄やかごの編み目など細かい部分をていねいに再現していることなどだ。これらの特徴はアウトサイダー・アートに通じるところがある。いや実際7歳で炭坑に入り、美術学校に通えるはずもなく約50年間炭坑で働いたあと、その記憶を元に60代なかばから描き始めたというのだから、リッパなアウトサイダー・アートといっていい。展示でひとつ気になったのは、壁に炭坑の写真を貼り、その上に絵を展示していること。こんな屋上屋を架さなくても絵自体で十分に存在感があるんだから。

2013/03/14(木)(村田真)

第16回岡本太郎現代芸術賞展

会期:2013/02/09~2013/04/07

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

今年は739点の応募のうち22組が入選。岡本太郎賞は、茶室の壁から柱、畳、釜、茶碗、花入れ、掛軸にいたるまですべて鉄素材・鉄製品を利用してつくった加藤智大の《鉄茶室徹亭》。これはスゴイ。秀吉の「黄金の茶室」より地味だが、きっと金を失ったんで鉄になったんだろう。でもそれがどーした感は否めない。岡本敏子賞は、宇宙からエイリアンが見た地球の姿を絵画、立体などで表現した石山浩達の《エイリアン・ヴィジョン:アンリミテッド・オイル》。これも労作だが、FRPの立体が村上隆のそれに似てたり既視感がつきまとう。特別賞で気になったのは、原寿行《アイ》と小松原智史の《コマノエ》。前者はブタの眼球から取り出したレンズを使って像を映し出す装置で、時間が経つにつれレンズが濁り、像がボケていく過程を見せている。これはおもしろい。ブタの眼球を切り裂く映像はブニュエルの『アンダルシアの犬』を思い出す。さらに鳥とか魚とかイカとか昆虫とかヒトとかさまざまな生物で試してほしい。後者の小松原は会期中、壁3面に貼ったパネルのみならず壁面にも墨でドローイングを増殖させている。その絵柄はボッシュ+山下菊二+ガロのマンガみたいなドロドロのアナクロものだが、時と場所をわきまえずに描き続ける意欲を買いたい。勝手に村田真賞だ。ところで今回、絵画作品が何点かあったが、サイズが巨大なせいかひとつの画像を三つのパネルに連続して描く3連画が多かった。先に挙げた石山の絵画部分がそうだし、ほかに熊野海、宮崎勇次郎、村上幸織、赤川芳之もそう。絵画を出してる大半が3連画だ。なぜ2でも4でもなく3なのか。

2013/03/12(火)(村田真)

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ルーベンス──栄光のアントワープ工房と原点のイタリア

会期:2013/03/09~2013/04/021

Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]

待望のルーベンス展。といっても2、3千点もの作品を残したといわれるルーベンスだけに、工房作品や版画も含めて80余点、しかもその大半が小品というのはちょっとさびしい。でもじつは捨てたもんでもない。油絵の大作だったら必ずといっていいほどアシスタントの筆が入っているが、小品のなかでも下絵や習作はほぼ間違いなくルーベンスの真筆と認められるからだ。トレ・デ・ラ・パラーダのための連作の油彩スケッチ6点はその好例で、一辺30センチにも満たないくらいの小品ばかりだが、それゆえにルーベンスの的確なデッサン力と軽快な筆運びが伝わってくる。いかにも肉々しい大作に辟易したムキには、こうした小品のほうがよっぽどうれしい。

2013/03/08(金)(村田真)

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