artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
サイドコア──身体/媒体/グラフィティ
会期:2013/03/23~2013/04/21
テラトリア[東京都]
大山エンリコイサム、竹内公太、ニコラ・ビュフといった名前に釣られて行ってみた。会場のテラトリアは、天王洲アイルの寺田倉庫本社内にできたクリエイティブスペースで、なぜかグラフィティ系の展示を中心にやっていくらしい。今回は身体とメディアの関係に意識的なアーティストたちの作品を選んでいるが、計15人のうちホンモノのグラフィティライターはひとりしかいないという。そのライター(QP)は今回グラフィティではなく、新宿の写真をコラージュした壁面作品を制作。完成度は高くないが、メッセージは明確に伝わってくる。隣の大山はグラフィティのストロークからエッセンスを抽出した絵画、その隣の松岡亮は大山作品に色づけしたみたいなステラを思わせる抽象画を出品。ニコラはキリンのすべり台とシーソーに落書きした一見カワイイ、しかしよく見るとすべり台がギロチンになっているという作品、菊地良太は橋の下にヒモを吊るしてブランコする記録写真、竹内公太はネットで自分のことを検索(「エゴサーチ」というらしい)して出て来た画像(男が頭にコーラを載せて歩いてる!)を描いた油彩画を出している。おもしろいなあ。広報もあまりしてないようだし、場所が場所だけに見に行く人が限られるのが残念だけど、いっそ寺田倉庫の壁にドーンと描いたら話題になるかも。
2013/04/19(金)(村田真)
ハジメテン「ハジメテン庫──ビッチビチストレージ!」
会期:2013/04/05~2013/05/06
ナディッフギャラリー[東京都]
イテテ、先週ぎっくり腰を患ってしまい、展覧会を見に行くのは久しぶり。ハジメテンは梅佳代、金氏徹平、小橋陽介らおもに関西ベースの8人のアーティストたちが、個々の活動のかたわら時おり集まって「ハジメテ」のことをしていくユニット、らしい。地下のギャラリーに降りて行くと、いろんなガラクタ類がところ狭しと置いてある。どんな小道具で使ったんやっていう発泡スチロール製の岩山、なぜかパン(これもハリボテで、食パン、バゲット、クロワッサンと多種類そろってる)、それにハリボテの大仏の頭と胴体。おそらくデカすぎて入んなかったから上下分けての展示になったんだろう。いや展示とはいわないな、とりあえずビッシリ詰め込んであり、足の踏み場もないほど。考えてみればこのギャラリー、最初のChim↑Pom展のときからモノを詰め込む展示が多い。地下空間で比較的容積が小さいせいか、物量攻めでそれなりに満足感が得られるからかもしれない。
2013/04/18(木)(村田真)
記念講演会「本物? 偽物? ファン・ゴッホ作品の真贋鑑定史」
会期:2013/04/07
京都市美術館講演室[京都府]
ゴッホ研究の第一人者、圀府寺司氏の講演会。展覧会の取材だけでなく、ゴッホ作品の真贋を巡るこの講演を聴くのも京都に来た理由のひとつ。なぜなら圀府寺氏はかつて倉敷の大原美術館で僕とまったく同じ経験をしているからだ。それは18歳のとき(70年代)大原美術館を訪れ、ナマのゴッホ作品《アルピーユの道》に初対面して感動し、隣の喫茶店エル・グレコで余韻に浸ったものの、後にそれが贋作であることを知り、あの「感動」はなんだったんだろうと考えてしまったことだ。違うのは、訪れたのがおそらく3年違いの春か夏かということと、エル・グレコで飲んだのがコーヒーかアイスティーかということくらいで、恐ろしく似た経験をしていたのだ(しかしもっとも異なるのは思慮深さで、それが約40年後に講演する側と拝聴する側にわかれることになる)。もちろんそれだけでなく、贋作そのものにも興味があっての聴講だ。話はおもにゴッホの贋作を売りさばいたオットー・ヴァッカーの手口と、美術史家ラ・ファイユらの鑑定の曖昧さを巡るものだった。考えてみれば贋作というのはニセモノと判明した作品のことだから、バレないかぎり贋作ではなく「真作」として扱われ、いまでも多くの美術館に飾られているかもしれないのだ。たとえばコローは約700点の絵を残したといわれるが、アメリカはかつて10万点を超えるコロー作品を輸入したというジョークもある。圀府寺氏いわく「すべての作品は灰色」と見るべきだと。そんな真贋鑑定の難しさを体験すべく、プロジェクターで2、3点のゴッホ作品を見せ、受講者にどれがホンモノかを当てさせる実験もした。ぼくは5問中4問正解したが、さすがゴッホ好き、贋作好き(?)が集まったせいか、4問正解は珍しくなく、全問正解もひとりいたらしい。たぶんこのなかにはぼくと同じように、かつて《アルピーユの道》に感動して裏切られた人も何人かいるに違いない。
2013/04/07(日)(村田真)
ゴッホ展──空白のパリを追う
会期:2013/04/02~2013/05/19
京都市美術館[京都府]
雑誌に連載している「ジャポニスム」の取材も兼ねて京都へ。ついでに大阪にも寄るつもりだったけど、あいにくの雨で断念。ほとんど毎年のように開かれるゴッホ展だが、今回はパリ時代に焦点を当てている。なぜサブタイトルが「空白のパリ」なのかといえば、ゴッホは死ぬまで弟のテオと文通していたので画家がなにを考え、どんな生活をしていたかがわかるのだが、パリにいた約2年間だけはテオと同居していたため手紙が少なく、詳細がわからないからだ。この間、ゴッホはロートレックやエミール・ベルナールら画家仲間と知り合い、印象派の影響で色彩が明るくなり、スーラを見習って点描画法を試み、そして浮世絵に夢中になった。いわゆるゴッホ芸術が一気に花開くのはその後アルルに旅立ってからだが、パリ時代は化ける直前の準備期間と位置づけてもいい。展示は2章にわかれ、第1章では「作品を売らなければ」「もっと色彩を」「厚塗りから薄塗りへ」などのテーマごとに2、3点ずつ解説とともに紹介され、第2章では「何に描かれたのか?」「絵の下に何が?」「誰を描いたのか?」といったQ&A方式で分類され、壁の上に絵画、下に資料や解説を置いている。きわめて啓蒙的な展示で、なかなかタメになるなあ。「ジャポニスム」にはほとんど触れられてなかったけど、女性の肖像画の隅に浮世絵が描かれていたり、板絵の裏に「起立工商會社」と墨で書かれていたり、日本とのつながりを示す作品が何点か発見できたのは収穫だった。ちなみにこの「ゴッホ展」、首都圏には巡回せず、このあと宮城県美術館と広島県立美術館に行く予定。
2013/04/07(日)(村田真)
ハンマーヘッド オープンスタジオ
会期:2013/04/05~2013/04/07
新・港区[神奈川県]
横浜トリエンナーレの会場として2008年に建てられた新港ピア。同年のトリエンナーレには使われたものの、次の11年には使われず、代わりにBankARTが「新・港村」として入居した。その縁でBankARTのプロデュースにより、「ハンマーヘッドスタジオ 新・港区」と称して今年度いっぱいアーティストの共同スタジオとして使用されている。若干の出入りはあるものの現在ここで活動しているのは約50組。開発好明、タカノ綾、曽谷朝絵、さとうりさといったアーティストから、青山|目黒、ダンスアーカイヴ構想、メビウスの卵といった団体まで多種多様。残りあと1年たらず、ここからなにか(なにが)生まれてくるだろうか? しかし空間がだだっ広いせいか、それともみんな遠慮深いのか、あまり熱気や活気は伝わってこないなあ。
2013/04/05(金)(村田真)